「久米島の戦争記録」編集の吉浜さん 平和学習に役立てて 住民証言や戦跡収録


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「久米島の沖縄戦を研究する基本情報が全部載っている」と説明する吉浜忍さん=7月29日、南城市

 【久米島】2016年から5年の歳月をかけてこのほど発刊された「久米島町史 資料編1 久米島の戦争記録」。編集から発刊まで中心となって尽力したのが沖縄戦研究者で同町史編集委員会副委員長を務めた吉浜忍さん(71)だ。吉浜さんはこれまでの各地の市町村史の歴史を踏まえ、今回の久米島町史を「一つの到達点」と位置付ける。近年、主流となりつつある米軍資料の掲載や、戦跡の紹介など時代に即した内容が盛り込まれているからだ。吉浜さんは「沖縄戦研究や平和学習に役立ててほしい」と期待する。

 「久米島町史」ついて吉浜さんは四つの特徴を上げる。(1)行政の聞き取りによる住民証言(2)警防日誌や戦争記、米軍資料の収集(3)鹿山正兵曹長に関する新聞記事の掲載(4)久米島町内の戦跡の紹介。
 町史には町による聞き取りで、初めて体験を語る人の話などを含め71件の貴重な証言が収められた。久米島だけでなく沖縄本島や海外での体験もつづられており、町民それぞれの沖縄戦が語られている。

 資料収集にも力を入れ、個人持参やさまざま機関に収蔵されていた戦時日記、米軍関係資料などを集め掲載した。吉浜さんは「散在する資料が1冊にまとまったことは大変価値がある」と意義を語る。

久米島町史 資料編1 久米島の戦争記録

 日本軍の鹿山隊による住民虐殺や、それに対する警防団の苦悩などが記された「警防日記」や「戦争記」も収録した。「これらの資料は他市町村史での掲載はあまりない」として、沖縄戦研究において「第一級の資料だ」と強調する。

 鹿山隊が住民や朝鮮人の谷川昇さん一家を惨殺した「鹿山事件」に関する1969~2020年の新聞記事も載せた。
 沖縄戦体験者の減少により、平和学習が人からもの(戦跡)へ移行しつつあることを踏まえ、島内42カ所の戦跡や慰霊碑も記した。子どもたちにも分かりやすいよう、1カ所ごとに地図や写真をプリントしてある。「戦争の記憶は人とものにある。人の命には限界がある分、ものの記憶をどうするかが問われている」と指摘した。その上で、久米島町史は「市町村史の一つの到達点だ。時代によって必要とされる内容が網羅的に盛り込まれている」と語った。

 久米島町史には他に鹿山事件に対する自治体の抗議決議文、国会での質疑、カラー写真などが掲載されている。
 同町史はB5判の832ページで3千円。久米島博物館の窓口で販売している。現金書留による郵送での購入も可能。問い合わせは久米島博物館(電話)098(896)7181(月曜休館)。 (照屋大哲)