米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向け、沖縄防衛局は建設予定地から約100~200メートルの距離に生息するサンゴは移植せずに新たな護岸工事を始める構えだ。独自のシミュレーションを根拠に、濁りはサンゴの生息範囲へ拡散しないと予測し、そのまま工事をしても離れているサンゴに問題はないと判断した。だが、こうした同局の方針に対し、専門家からは、工事で発生する海水の濁りがサンゴ類の生息環境を脅かす恐れがあるとの指摘が上がっている。
防衛局が着手しようとしているのは、大浦湾側に建設予定の護岸「N2」。防衛局は予定地に重なっている小型サンゴ約830群体は、護岸造成前に別の海域へ移植する方針だ。県は夏場や台風シーズンを避けて作業するよう条件を付けていたが、防衛局は護岸工事に向け、県の条件をほごにして作業を急いでいる。
一方、N2の建設予定地の近くには大型サンゴやショウガサンゴも生息している。防衛局の資料からは、約100~200メートルの距離と、読み取れる。防衛局は2020年6月、これらのサンゴについて移植許可を県に申請したが、今年1月、不許可となって移植できていない。生息海域に軟弱地盤が存在しており、工事の完成が見通せないことが理由だ。
防衛局は今月10日、自身が設置した有識者会議「環境監視等委員会」で、これらのサンゴを別の場所に移す前に護岸を造成しても問題ないとの見解を示した。
沖縄防衛局のシミュレーションによると、サンゴ生息地点では濁りが環境保全目標値(1リットル当たり2ミリグラム)を下回る結果となったという。だが、同局は工事予定地からサンゴまでの距離さえ明らかにしておらず、外部から検証できない状況だ。
サンゴの生物学を専門とする大久保奈弥東京経済大准教授は「海の濁りはサンゴに大きなストレスを与える。しかも、台風などによる自然の濁りではなく、人工的な濁りだ」と指摘。「防衛局の汚濁対策は機能していないことが判明している。一過性の濁りなら排出できるが、数週間続けばサンゴにとってダメージが大きく、死に至ることもある」と説明した。
(明真南斗)