喜友名×屋比久メダリスト対談 「体のキレ」の秘訣は?


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【左から】喜友名諒、屋比久翔平

 東京五輪で県勢初の金メダルを獲得した空手男子形の喜友名諒(興南高―沖縄国際大出、劉衛流龍鳳会)とレスリンググレコローマンスタイル77キロ級で銅メダルを獲得した屋比久翔平(浦添工高―日体大―日体大大学院出、ALSOK)による17日の対談は、那覇市泊の佐久本空手アカデミーの喜友名と神奈川県内の自宅にいる屋比久をオンラインでつないで実施した。両選手が自国開催の五輪を振り返り、互いの競技や練習方法などについて、それぞれから質問も上がった。 (進行・長嶺真輝)

<歴史的な快挙>

喜友名 沖縄の伝統を世界に
屋比久 後輩が頑張る契機に

男子形予選 喜友名諒の演武=日本武道館

 Q:2人とも沖縄スポーツ界にとって歴史的な快挙を成し遂げた。周囲からの反響は。

 喜友名 五輪を通してたくさんの方に空手を見ていただけた。沖縄の伝統を県民、そして世界中に伝えることができたんじゃないかと思っている。

 屋比久 今は横浜に住んでいるが、近所の人からも声を掛けてもらう。沖縄からもマンゴーや沖縄そばが届いて、祝ってくれている。反響はすごい。

 Q:沖縄の子どもたちにも夢を与えた。後進への期待は。

 屋比久 沖縄でレスリングをしている子どもたち、中高生には1番を目指してほしい。僕や大学で活躍している県勢選手を見て「自分もいけるんだ」と思ってくれたら、それだけで十分。頑張れるきっかけにしてくれたらうれしい。将来、沖縄で指導者になりたいという思いは今も変わらない。

 喜友名 先生から教わってきたことに加え、自分が経験してきたことを子どもたちに指導していきたい。沖縄には身体能力が高い子も多い。競技を始めたり、目標を持ってもらうきっかけをできるだけ多くつくることができたらいい。

<コロナ禍>

屋比久 スタッフ応援が力に
喜友名 ボランティアに感謝

 

 

 Q:自国開催、コロナ禍という特殊な五輪だった。

 屋比久 いつも海外の大会に出る時は体重調整もある中で飛行機に乗り、丸一日練習ができない状況が生まれるけど、普段と環境を変えることなく調整ができたのはやりやすかった。コロナ禍で無観客にはなったけど、ボランティアやスタッフの方が応援してくれて、すごく力になった。感謝の思いでいっぱい。2010年の美ら島総体は石垣市でレスリングが開催されたが、その時の雰囲気に似ていた。

 喜友名 コロナ禍ではあったけど、沖縄でいつも稽古している道場でマスクを付けたり、細かく消毒をしたりしながら毎日稽古はできて、本番に向けてしっかり調整することができた。大会は制限も多かったけど、試合会場や選手村でスタッフやボランティアの方々が支えてくれて、それがとても伝わってきた。本当に感謝している。

<互いへの質問>

屋比久から 動き緩急の切れは 喜友名 瞬発系練習取り入れ
喜友名から 体づくりの方法は 屋比久 実際に人持ち上げる

 

男子グレコローマン77キロ級3位決定戦 イラン選手を攻める屋比久翔平=幕張メッセ

 Q:これまで面識は。

 喜友名 屋比久選手がメダルを取った次の日に選手村で初めて会って、声を掛けさせてもらった。「おめでとうございます。元気と勇気をもらったので自分も頑張ります」と伝えた。

 屋比久 初めて会ったけど、遠くから見ても目力が強くて「あ、喜友名さんだ」とすぐに分かった。声を掛けてもらってすごくうれしかった。その場で「ありがとうございます」と返答した。

 Q:お互いの試合を見ての感想は。

 喜友名 詳しいルールは分からないけど、投げまくって一気に点差を離して、すごかった。レスリングは接触が多いので、体の強さがとても大切になると思う。お互いに身長や体重は同じくらい。どうやって体づくりをしているんですか。

 屋比久 ウエートトレーニングもするけど、人を使ってやることが多い。胴を持って床から持ち上げたり、おんぶや抱っこをして走ったりとか。空手形は実際に相手がいる訳ではないけど、喜友名さんが一回一回、発声をしながら技を決める時の迫力がすごい。レスリングも相手に圧を掛けるために、動きの緩急が大事になる。どうやって切れを出しているんですか。

 喜友名 佐久本嗣男先生や清水由佳先生に毎日稽古を付けてもらっている。佐久本先生がいつも言うのは「突くんじゃなくて、砕け」ということ。ミットを突いたり、巻藁を使った稽古もある。実際に当てる感覚を身に付けながら鍛錬をしている。形の緩急は今回の五輪での自分のテーマで、そこで海外選手と差を付けようとしていた。トレーニングの中に瞬発系の練習も入れて空手に生かしている。見た人に緩急が伝わったことはうれしい。

<今後の目標>

屋比久 グラウンド課題改善
喜友名 五輪復帰へ魅力発信

 Q:3年後にはパリ五輪がある。屋比久選手の次の目標は。

 屋比久 東京五輪では3試合とも全てグラウンドから回されてポイントを取られ、課題が見付かった。ここを改善できれば決勝までいけたし、もっと上のレベルで戦えると思う。世界規模の選手権大会や総合大会でメダルを取ったのは今回が初めてなので、一年一年、世界でコンスタントに結果を出せるようにしたい。メダルや決勝に絡めるように成長し、パリ五輪では金メダルを取りたい。

 Q:喜友名選手は今年世界選手権が控える。目標は。

 喜友名 来月には選考会があり、11月にはドバイで本番がある。個人だけでなく、団体も金城新、上村拓也と出場切符をつかむ。団体、個人で優勝することが目の前の目標になる。

 Q:パリ五輪では空手は実施競技に入っていない。五輪での再実施に向けた思いは。

 喜友名 五輪種目に入ることで、空手を取り巻く環境にも大きな変化があった。また五輪種目になるよう、空手の魅力を発信していきたい。


 きゆな・りょう 東京五輪の空手男子形で金メダル。5歳で空手を始め、沖縄東中3年時に劉衛流に入門した。世界選手権は2014、16、18年と3連覇中。18年2月を最後に国際大会で負けなし。全日本選手権は史上最多の9連覇中。興南高―沖縄国際大出。劉衛流龍鳳会。1990年7月12日生まれの31歳。沖縄市出身。

 やびく・しょうへい 東京五輪のレスリンググレコローマンスタイル77キロ級で銅メダル。嘉数小4年で競技を開始。全日本選手権で優勝5度。17年から世界選手権に3年連続出場。4月のアジア予選で2位に入り五輪出場枠を獲得した。浦添工高―日体大―日体大大学院出、ALSOK。1995年1月4日生まれの26歳。名護市生まれ。