【石垣】石垣市で29日から、コミュニティー内で使用できる電子地域通貨「まちのコイン」のサービスが始まる。利用者がコインを使って得られるのは、品物やサービスそのものではなく、さまざまな「体験」や人とのつながりだ。運営会社によると、お金では買えない価値あるものも、コインを介せば得られるようになるという。目指すのは、コインを通じた地域の結びつきの深化だ。
まちのコインは、専用のアプリ内でやりとりできる電子通貨。これまでに県外の自治体などで導入実績はあるが、県内では石垣での導入が初という。各地でコインの名称は違い、石垣では「まーる」と呼ばれる。
サービスは基本的に無料で受けられる。個人での利用者は、アプリに登録することで、500まーる分のコインが得られる。このコインを支払うことで、スポットと呼ばれる店や団体などが設定した体験に参加できる。
体験の例は「100まーるで方言を教える」「200まーるでおいしいコーヒーの入れ方を教える」など。逆にスポット側が「店の掃除を手伝う」「マイボトルを持参する」など人を募り、参加者にコインを支払うこともできる。
コインをやりとりすることで、知らないスポットに立ち寄ったり、気軽にイベントに参加したりできるようになることが、このアプリの目的だ。
コインは換金できず、得たコインも180日の使用期限が過ぎると運営側に回収される。今後、運営側に課金することでコインを購入することもできるようになるというが、基本的にはコインを使って人と交流し続けなければ、アプリを楽しめない仕組みになっている。
まーるはプレオープンし運用が始まっており、17日時点で、すでに26のスポットが登録されている。そのうちの一つに任意団体「八重山ヒト大学」がある。この団体は八重山の若者による地域課題の解決を目指す組織だが、提供する体験の一つに学長の前盛よもぎさん(26)との散歩がある。
一見するとただの散歩だが、目的は前盛さんが暮らす石垣島北部に、人々が足を運ぶきっかけをつくること。前盛さんは「歩くことや人と話すことは、お金に換算しづらいが、コインを介することで参加しやすくなると思う。石垣では南部に人が集まりがちだが、北部にも足を運ぶ機会になる」と期待している。
まちのコインを開発したのはゲームアプリの開発などを手がけるカヤック(神奈川県)で、まーるを運営するのは、その子会社のカヤックゼロ(石垣市)だ。
カヤックゼロの担当、岩倉千花さん(30)は「普段のコミュニケーションのプラスアルファとして、石垣島がもっと面白い島になるきっかけになる」とアプリの魅力をPRしている。
(西銘研志郎)