【深掘り】南西諸島で加速する陸自ミサイル配備 その背景は?


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 防衛省、自衛隊が南西諸島へのミサイル配備を加速させている。防衛省は2023年度をめどに、うるま市の陸上自衛隊勝連分屯地へ、沖縄本島初となる地対艦ミサイル(SSM)部隊を配備する方針を固めた。陸上自衛隊は今月末には、宮古島市城辺保良の陸自保良訓練場へ、地対艦、地対空ミサイルなどの弾薬を本格搬入する予定だ。

 沖縄本島への配備により、奄美大島から石垣島まで4島に連続的に配備されることになったSSM。地上から敵艦艇を攻撃するミサイルだ。中距離地対空ミサイル(中SAM)と合わせ、敵の接近を阻止するだけでなく、中国の勢力を東シナ海に封じ込める「防波堤」としての役割も果たす。だが、有事の際には標的となる恐れもあり、地元住民らの反発が予想される。南西方面の配備を厚くすること自体が中国との緊張を高める懸念もある。

 けん制

 陸地から艦艇を攻撃する地対艦ミサイル部隊は既に奄美大島と宮古島に配備されており、石垣島でも配備方針が固まるなど、防衛省と自衛隊は南西諸島への配備を着々と進めてきた。ただ、現在の12式地対艦ミサイルの射程は百数十キロ程度とされ、奄美大島と宮古島の間は射程内に収まらない「空白地帯」(防衛省関係者)が生じていた。

 一方、中国の空母「遼寧」が16年12月に沖縄本島と宮古島の間の公海「宮古海峡」を初めて通過するなど、中国は活動を活発化させており、沖縄本島への地対艦ミサイル部隊配備が「必要だ」との声が防衛省内で強まっていた。沖縄本島への配備で宮古海峡の空白を埋め、海峡を通過する艦艇をけん制したい考えだ。

 防衛省は12式地対艦ミサイルの飛距離を伸ばし、相手の脅威圏外から攻撃できる長射程ミサイル「スタンド・オフ・ミサイル」の開発も進めており、今後、県内に配備するとみられる。有事の際には、相手の射程圏外から相手艦艇を攻撃することで海自艦艇の戦闘を支援するのが狙いだ。防衛省幹部は、ミサイル部隊の配備で中国海軍を封じ込めることは「同盟国である米国の利益にもかなう」と話す。

 危険性

 防衛省は軍事的な理屈で配備を進めるが、地域住民の安全確保への対応は十分ではない。先島へのミサイル部隊配備を巡っては、有事の際に住民や観光客ら約10万人を避難させることが本当に可能かどうかという問題がある。国民保護計画の策定は市町村が担うことになっている。

 自衛隊内でも機密性が高いミサイルの扱いについて、自治体や住民への情報公開は不十分だ。火災時など、周辺住宅が爆発に巻き込まれる恐れがない距離を保っているかなど、地元からは疑念の声が上がっているが、防衛省は弾薬の量など詳細は明示しておらず、懸念は拭えていない。

 6月に宮古島への弾薬の搬入を始めた際も詳細を伏せたままで、玉城デニー知事は「危機管理の観点からもあってはならない」などと批判していた。

 8月末に予定している弾薬の本格搬入についても、陸自は公式には発表していない。6月にヘリ2機で輸送したよりも、大量の弾薬を持ち込むとみられる。

 宮古島市の条例は「危険物」を載せて港を利用する場合、市長の許可が必要と定めている。関係者によると、港湾法で港湾の利用に関して不平等な取り扱いをしてはならないと示されていることから、市は認める可能性がある。ただ、合理的な理由がある場合は使用を規制できる仕組みだ。座喜味一幸市長の判断が今後の焦点となる。 (知念征尚、明真南斗)