性暴力被害者を中傷、減刑も 米兵の犯罪軽んじる説得横行 米統治下の記録


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 米統治下に発生した米兵らの事件27件に関する軍法会議録や捜査記録について、高内悠貴氏は米国立公文書記録管理局セントルイス分館で収集した。その記録からは、正当に性犯罪として起訴されず、軽い罪で裁かれていた事件が判明した。県民がほとんど参加できず、結果さえ知らされることがまれな軍法会議で、弁護側が性犯罪の被害者をおとしめる主張で減刑を求めていたことも分かった。

 高内氏が入手した米軍犯罪捜査部(CID)の捜査資料によると、1949年8月、安里村(現那覇市)のホテル兼住宅にいた19歳女性を3人の米兵が拉致し、ビーチで性的暴行した事件があった。スカートとブラウスに血痕があり、被害者が拉致と性的暴行の被害を訴えているにもかかわらず、加害米兵らの証言を基に軍の上官がソドミー(オーラルセックスなど「不自然な」性行為)の罪で起訴。米兵らは「道を歩いていた女性に売春を持ちかけた。彼女は『十分な額がもらえるなら』と言って応じた」などと主張した。

 被害者やその母親は、米兵が来た際、被害者はすぐに隠れたが米兵に見つかり、手首をつかまれ、銃で脅され拉致されたと捜査機関に証言した。連れていかないよう懇願した母親も銃で脅されたという。CIDは米兵らが違法にホテルに侵入し、性交渉のために女性を拉致した上、立ち入り禁止のビーチに入ったと結論付けた。

 69年2月にコザ市(現沖縄市)の飲食店に勤めていた女性(22)が、バスタオルで首を絞められて殺害された事件の軍法会議で、被告の二等兵の弁護人が「彼女(被害者)はオールド・コザ(沖縄市照屋の歓楽街、通称『黒人街』)の売春婦で、控えめに言って評判が疑わしい」と述べた。一方、被告については「まだ社会の一員として更生が可能だ」と主張した。二等兵には50年の禁錮・重労働刑が言い渡された。

 当時の琉球新報の報道によると、米陸軍報道部筋が「弁護人から被告の家庭の事情が出され、情状酌量を要望したことと、被害者が特殊婦人(売春婦)だったことが陪審員に受け入れられたのだろう」との見解を示しており、被害者をおとしめる弁護人の主張が判決に影響した可能性もある。

 高内氏は「軍法会議は軍全体の規律を維持するため違反した兵士を罰することが目的で、被害者が入り込む余地が全くない」と軍法会議の秘匿性を指摘。「性犯罪の被害者を『評判』を根拠に非難し、米兵の犯罪を軽んじる説得が横行していた」と述べた。

 高内氏は「軍法会議の時期や米兵の氏名が分かれば資料の収集ができる」として、情報提供を求めている。


 

高内 悠貴氏

 たかうち・ゆき

 愛媛県出身、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校歴史学部博士課程在籍。軍法会議録の請求のために必要な、起訴された米兵の名前を収集するため2018年に沖縄で調査を行った。19年、女性の研究を支援する「金城芳子基金」の助成を受けた。さらなる軍法会議録収集のため、米占領期の米兵犯罪について情報収集している。takauch2@illinois.edu