県内の新型コロナウイルスの新規感染者数は減少傾向にある一方、入院患者は減少に転じず、医療体制の危機は続く。非コロナ患者を含め、さまざまな重症患者を受け入れる「最後のとりで」として“温存”されてきた南風原町の南部医療センター・子ども医療センターも、流行第5波により、逼迫(ひっぱく)している。センターの土屋洋之医師は「長期間にわたり、広範囲な災害医療をやっている感覚だ」と現状を語った。
デルタ株の影響により若年者の重症化事例が顕著で、センターでも多い日に十数人を受け入れてきた。限られた病床を回すため、症状が落ち着いた患者から理解を得た上で自宅や療養ホテルに移し、健康管理を続けている。
県内では流行直後から、民間病院が患者を受け入れ、県立などの医療機関への負担集中を回避した。だが、8月下旬に1日800人以上の新規患者が発生し、センターの救急部門も逼迫(ひっぱく)した。このため、人工心肺装置「ECMO(エクモ)」などの専門的知識を持つ人員を集中治療部門に集め、救急部門に他科の応援医師を配置するなどして、事態に対応してきた。
呼吸不全の中等症Ⅱ以上患者を受け入れてきたが、デルタ株流行以後、20~60代の幅広い年代で重症化する事例が相次いでいる。土屋医師は「症状が激烈で、(デルタ株以前と)違う病気を診ている感じだ」と語った。
集中治療部門の新里盛朗医師によると、第5波以降、エクモ導入は3例。救命に至ったが「エクモは合併症による死亡率も高いので、導入基準は年齢や基礎疾患を基にシビアに検討している」という。
飲食店で感染し、エクモを措置された30代前半の男性は、気管挿管が取れた直後に助かったと思って涙を流し、退院時には「もう酒は飲まない」と自らの行動を省みたという。新里医師は「思いもよらず重症化したことで反省したのだろう」と話した。
センターでは、ワクチン接種者が重症化した事例はほぼないという。土屋医師は「命に関わる状況を回避するため、自分や大切な人を守るため接種してほしい」と訴えた。
治療の優先順位を決める「トリアージ」を迫られる場面はこれまでないとしながらも、「先週はぎりぎりの綱渡りで、県内の重症者の受け入れ先がなくなりかけた。トリアージを回避するため、何とかベッドをこじ開けている。自粛生活に不便はあるが、新型コロナの感染は自分の命に直結すると意識してほしい」と感染防止を呼び掛けた。
(嘉陽拓也)