[日曜の風・香山リカ氏]沖縄の名誉も回復 「ニュース女子」訴訟


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 1日、東京地裁で一つの画期的な判決が下された。東京の地上波で流されたテレビ番組「ニュース女子」の制作会社を提訴していた辛淑玉さんが勝訴したのだ。裁判長は名誉毀損(きそん)を認定し、制作会社に550万円の支払いを命じた。

 よく知られているように、辛さんはこの番組の沖縄リポートの回で、高江地区の米軍基地建設反対運動の“黒幕”だとされ、辛さんが共同代表を務める市民団体が反対運動参加者に日当を払っているかのような表現もあった。

 判決は「全面勝訴」と言ってよい内容だ。ところが判決後、記者会見に臨んだ辛さんには笑顔がなかった。そして「私一人だけが救助されたように思う」と述べて涙を流したのだ。「沖縄を、そこで生きる人々を、番組は愚弄(ぐろう)した。それについては、裁判所の力でも裁くことはできなかった」というのが、その理由だ。

 辛さん自身に言及しない部分でも、この番組全体が「(反対運動に参加しているのは)万が一、逮捕されても生活に影響が少ない65歳以上のお年寄り」など抵抗運動をあざ笑う内容になっていたことを指しているのだろう。

 その気持ちは私にも分かる。私はネット放送局「チャンネル桜」の沖縄支局の番組でデマを流され、提訴して勝利した。その番組も私を取り上げることで、沖縄の基地反対運動を愚弄する内容になっていたが、判決はあくまで個人の名誉毀損が認定されるにとどまり、沖縄のことには言及がなかったのだ。

 でも私は辛さんに言いたい。辛さんの名誉毀損が認められ、この番組のデタラメさが明らかにされたことで、高江や辺野古での基地建設反対運動に関するそのほかの部分もまったく信用ならないと証明された。それは、沖縄やそこで生きる人々への名誉の回復にもつながるだろう。「デマは許せない。沖縄に目を向け、正しいことを知ろう」と励まされた人も多いはずだ。これからも辛さんや多くの人たちといっしょに、前を向いて歩いていこう。

(香山リカ、精神科医・立教大教授)