小劇場「今は蓄えの時期」演劇の力を信じ新たな活動<続・舞台の灯をつなぐ>2


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アトリエ銘苅ベースの当山彰一代表(左)と劇場の管理を担当する新垣七奈=那覇市

 コロナ禍で「密」を回避した結果、小劇場で開かれる演劇やイベントは縮小、延期、中止が相次いだ。多くの困難の中、那覇市の小劇場「アトリエ銘苅ベース」代表を務める俳優の当山彰一は「何があろうと、なくなるとは思っていない」と演劇の力を信じる。

 銘苅ベースは2017年にオープンした。直後から1カ月ごとに公演を続け、観客から次第に「来月も楽しみ」という感想も寄せられるようになった。ようやく観劇の文化が定着すると感じ始めたところのコロナ禍だった。リモート演劇も模索したが、表現の限界を感じた。生身の人間が演じ、生身の人間が見る舞台の空気感を再現するには至らなかった。

 100日以上の停止を経て、再開したのは2021年7月だった。観客の感想欄には「コロナで大変だったけど、やってくれてありがとう」と記されていた。当山は「求めてくれる人は確実にいる」と需要が途絶えていないことに感激した。

 併せて拠点があることの重要さを再認識した。「公共の劇場だと閉鎖されてできないだけだが、自前に劇場を抱えているので続けることができた。劇場がなければ、本業が別にある劇団員が戻ってくる場所がなかったかもしれない」

 演劇の裾野を広げるため、幼児向け演劇プログラムの開発事業にも取り組み始めた。県内に幼児向けの演劇プログラムはなく、子どもが演劇に触れることは少ない。「一人でも多くの子どもたちに良質な文化芸術体験の機会を」との思いを込めて取り組んだ。

 劇作家の平田オリザさんを招いた講演会やワークショップ、若手育成の「演劇キャンプ」、戯曲を朗読する「リーディング・カフェ」など、感染対策をしながら活動を継続する。

 「コロナ後」がいつ訪れるのか、まだ分からない。演者と観客が一つの空間を共有するという、演劇の醍醐味(だいごみ)に対する制限は続く。当山は「今は蓄えの時期だ」と前を向いて歩を進める。