[日曜の風・浜矩子氏]VUCAって何だ?  言葉の独り歩き


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浜矩子 同志社大・大学院教授

 今はVUCA時代。近頃、この言い方によくお目にかかるようになった。VUCA時代をどう生き抜くか。それを人々が自分に問い掛けるようになっているらしい。

 ところが、VUCAを気にしている人々の多くが、実はVUCAを知らない。漠然と「不確実性」を意味する言葉だと考えている。これはいけない。VUCAは頭文字用語だ。頭文字用語は必ずそれぞれの文字が何の頭文字なのかを確認する必要がある。

 それをしないで頭文字用語をそのまま独り歩きさせることは危険だ。大いなる誤解につながる恐れがある。多くの人が同じ一つの言葉を使っているのに、言わんとしていることがまるで違っている。そんなことにもなりかねない。

 VUCAはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字だ。元々は軍事用語として生まれた。アルカイダなどテロ集団との戦いが、従来の国家間戦争といかに違うか。違いの主因を追究していったら、VUCAにたどり着いたのである。

 だが、思えば、これらの4要素は、企業の今日的経営環境、あるいは今の時代状況全般にも当てはまる。この発想が、VUCA時代という言い方や、VUCAに備えなくっちゃという意識を生み出してきたのである。この言葉を使う以上、これくらいのことは知っておいた方がいい。

 語源が確認されないまま、大いに独り歩きしている言葉がもう一つある。「フリーランス」だ。特定の組織に所属せずに仕事をする。この働き方をなぜフリーランスというのか。フリーは自由、ランス(lance)は槍(やり)の意だ。自由な槍とは、すなわち傭兵(ようへい)を意味する。特定の主君に仕えず、自分の槍の腕前が高く売れる戦場を渡り歩き生計を立てる。そんな兵士たちがフリーランサーと呼ばれた。19世紀に使われ始めた言葉だ。

 自分はフリーランサーだと言いながら、その意味するところを知らないと、高く売れるはずの能力を買いたたかれてしまうかもしれない。VUCAに備えると言いながら、何に対して備える必要があるのかを認識していなければ、備えあれど憂いがいっぱいということになりかねない。意味不明な言葉を独り歩きさせてはいけない。

(浜矩子、同志社大・大学院教授)