10歳の時、読書感想文指定図書の「マチルダは小さな大天才」を読みました。感想文を書くためだけに手にした本だったのですが、今まで読んだどの本よりも面白く、私の日々感じていることがつづられ、衝撃を受けました。何度も何度も読み返し、この本に出会えたことに感謝しました。
主人公のマチルダは6歳で、本を読むのが大好きで算数も得意。私のように車いすに乗っているわけではないけれど、小さな女の子が大きな大人たちに囲まれて生活する世界、困りごと、好きなことが、私と同じだったのです。小さな体だと手に届かないものが多いけれど、工夫をして手にすること。無理解な大人たちにばかにされ、言い返したいけれど黙るしかないこと。でも時には理解してくれる信頼できる大人もいること。養護学校(現特別支援学校)に通い、クラスが一人ぼっちで寂しかった私は、マチルダのようにクラスメートに恵まれることにも憧れました。
あれから30年の月日がたち、本を読み返してみると新しい発見があったのです。10歳の私があの本に引かれた理由は当時、苦しんでいたからだと気づいたのです。私の前年度の担任が、本に出てくる横暴な校長ミス・トランチブルと重なっていました。私がつらかったのは担任のひどさだけでなく、まわりの大人が誰も私を助けてくれないという絶望感でした。一日一日を祈りながら過ごしていました。
幸いこの本に出会った翌年は担任が代わり、ほっとしていましたが、前年度の担任は近くにいて、時々嫌がらせをしてきました。まわりの大人が誰も助けてくれなかったことで、大人への信頼を失い、自分でどうにかするしかない、と思っていた私はマチルダに憧れたのです。小さなマチルダは横暴な校長や無理解な大人に、賢い作戦を立て立ち向かい、仕返しをし、追い出し、大好きな担任ミス・ハニーと暮らすハッピーエンドを迎えます。
私も嫌いなものに立ち向かい好きな環境で暮らしたい、マチルダのように自分の力を信じてできることをやろうと、思えるようになりました。それから塾に通い始め、普通高校に進学することも諦めませんでした。あの時の私がこの本に出会えて良かった、と改めて思いました。
読書の秋ですね。本離れが進む毎日ですが、あなたも一冊をめくってみませんか?その後の人生を変える出会いになるかもしれませんよ。
いぜな・なつこ 1982年那覇市生まれ。コラムニスト。骨形成不全症のため車いすで生活しながら2人の子育てに奮闘中。現在は神奈川県在住。