全国の保健所で実施しているHIV検査数と相談件数をまとめた厚生労働省エイズ動向委員会の「エイズ予防情報ネット(APIーNet)」四半期報告によると、2021年1月から6月までの検査数と相談件数がゼロを記録したのは、全国で沖縄のみだったことが6日までに分かった。他都道府県では新型コロナウイルス対応で保健所の業務が逼迫(ひっぱく)する中でも規模を縮小するなどして体制を維持しているが、県と那覇市は検査を1年以上休止したままで、対応の差が浮き彫りになっている。
HIV(エイズウイルス)は発見が遅れるとエイズを発症して死につながる可能性がある感染症で、主に性行為によって気づかないうちに他者にうつす危険があるため、早期発見が重要になる。
県と那覇市が県内6カ所で無料・匿名で実施していたHIV検査と相談は、保健所のコロナ対応を理由に2020年7月から8月にかけて全て休止した。現在は五つの民間医療機関での検査を呼び掛けている。一方で他都道府県は、保健所の体制を長期にわたって完全には休止せず、業務を縮小したり、外部機関に業務委託したりして対応している。
県内の保健所が過去10年間で実施した検査数は、毎年2千件台で推移していた。2020年はコロナ感染者が増加した2~3月に検査を休止。新規感染者ゼロが続いた6月に再開したが、感染者の発生を受けて再休止した。同年の検査数は442件にとどまった。
厚労省は保健所での無料・匿名による検査相談体制の充実や、利便性の高い場所で検査することなどが、HIVの予防に重要だとする指針を出している。だが県が案内している五つの民間医療機関の検査は原則有料・実名だ。また医療機関は本島中南部に集中し、北部や離島にはない。
エイズ中核拠点病院の琉球大学病院のまとめでは、21年1月から8月までの民間医療機関の検査数は351件だった。同院でHIV感染者やエイズ患者の医療・療養環境調整を担当する、県感染症診療コーディネーターの新里尚美さんは「有料・実名でも検査を希望する人が一定数いることは分かった」とし、「例年の保健所の検査数には追いついていないことから、民間医療機関での検査のハードルを高く感じている人もいると思われる。検査数以上のニーズが本来あるのではないか」と指摘した。
県ワクチン接種等戦略課は「できるだけ早く無料・匿名で検査を受けられる体制を整えたい。だが保健所や医療機関はコロナの状況に左右されるので、そうした場所の確保や、保健所での検査再開のめどは立っていない」とした。
(嶋岡すみれ)