米軍ビラ読み、戦況に疑念 中村吉子さんの体験 母の戦争(10)<読者と刻む沖縄戦>


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
現在の南城市玉城前川の集落

 中村吉子さんは戦禍が迫る玉城村(現南城市玉城)前川集落での出来事を息子の陽一さん(67)=西原町=に語っていました。息子たちを兵隊に取られ、心を病んだ高齢男性の話です。

 《グラマンの機銃掃射が始まったころです。グラマンのエンジン音が聞こえたら皆一斉に防空壕に逃げ込むようになっていたのですが、じいさんは逆にグラマンを指さし、息子の名を呼んで「おーい、今すぐ降りてきて、サトウキビの手入れをしてこい」と足元をふらつかせながら叫んでいる。グラマンは機関銃を浴びせるが、じいさんにはなかなか当たらない。なんとも不思議な光景でした。》

 吉子さん自身も米軍機の機銃掃射で命を落としかけたことがありました。そのころ米軍は上空から宣伝ビラを前川集落にまくようになっていました。日本軍はビラを回収し、読むことを住民に禁じました。

 《ある時、キビ畑でビラを発見して読んだ。もちろん読んだことは当時、誰にも言っていない。日本語で、内容はこうだ。「日本は武器弾薬もないのに、どう戦うのだ。今すぐ投降せよ」
 こんなものを持っているとスパイだと疑われるので、すぐ捨てた。こんなビラを空からまかれるような日本が勝てるわけはないと、薄々ながら感じていました。》

 宣伝ビラを読み、吉子さんは戦争の成り行きに疑念を抱くようになっていました。