自衛隊が訂正するまで…「PFOS流出」調査報道を振り返る 「不都合な事実」明らかに


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琉球新報の調査報道をきっかけに行われた空自の調査でもPFOSが含まれることが判明したことを伝える紙面

 記者が現場へ足を運び、住民や専門家から話を聞き、当局にじかに当たり、地道な作業を積み重ねて事実を確認していく。そのような調査報道も新聞社が果たす仕事の一つだ。本紙は2月に航空自衛隊那覇基地から泡消火剤が保育園や住宅地に飛散した事故で、当初空自が「毒性や損傷性はほとんどない」と発表していた消火剤に、発がん性が指摘される有害物質が含まれていることを調査報道で明らかにした。本紙が報じなければこの不都合な事実は世に出ることはなかった。新聞週間に合わせ、当時の報道を振り返り、報道機関が果たす役割について考える。

含有を否定

 2月26日、外部から那覇市内の住宅街に泡が広がっているとの情報が入った。社会部の長嶺晃太朗記者や吉田早希記者が現場へ駆け付け、近隣保育園など現場の聞き込みに当たった。

 航空自衛隊那覇基地からの流出と判明したが、那覇基地は発生当日中に「消火剤にPFOS(ピーフォス、有機フッ素化合物)は含有しておらず、毒性又は損傷性はほとんどありません」とのリリースを発表した。

 当日デスクだった島袋貞治社会部長が、米軍基地から有害性が指摘される有機フッ素化合物を含む泡消火剤がたびたび流出していた事故を念頭に、成分を調べるために泡の採取を指示した。泡は第三者の京都大へ分析に回した。

見解に疑問

 自衛隊側に取材した基地担当の明真南斗記者は、空自の「毒性はほとんどない」とした見解に疑問を抱いた。識者の助言を基に消火剤の製造元の資料に当たって、呼吸器や心臓、中枢神経、皮膚への有害性を挙げて「危険」と記されていることを突き止め報道した。

 泡の分析の結果が出て、空自が含有していないとしたPFOSが検出された。3月10日付紙面で当初の空自側の説明との食い違いを報じた。

 泡消火剤にはPFOSが1リットル当たり244ナノグラムが検出され、他に複数の有機フッ素化合物も検出された。PFOA(ピーフォア)は1リットル当たり13ナノグラムで、国が定める暫定指針値(両物質の合計が水1リットル当たり50ナノグラム)を上回る値だった。

 この報道を受け、那覇市が独自の調査に着手、当事者の防衛省も那覇基地周辺で回収した泡の調査・分析に乗り出した。

防衛相謝罪

 空自那覇基地は4月7日、突然ウェブサイトに自衛隊による調査結果を公表、PFOSが消火剤に含まれていたことを認め、当初の説明を訂正して謝罪した。岸信夫防衛相も謝罪した。発表によると、事故当日に基地内の水路から回収した汚染水から、PFOSが1リットル当たり最大3010ナノグラム、PFOA3380ナノグラムが検出された。国の暫定指針値の128倍に上った。空自那覇基地は6月になって泡が付着した民家を洗浄した。

全国へ波及

 泡消火剤流出事故を受けた4月の調査に関し空自那覇基地は9月、消火設備の水槽の調査について、高濃度の有機フッ素化合物(PFAS)の一種、PFOSとPFOAを検出したと発表した。国の暫定指針値を大幅に上回り、最大約9200倍に当たる値が検出された。それを受けて、岸防衛相は、那覇基地と同様の設備がある全国の自衛隊基地で水槽の調査を行う考えを示した。那覇基地の泡消火剤にPFOSなどが含まれていた事態から、全国の自衛隊基地の調査に発展した。

 (滝本匠)