同じ境遇を支える側に…心理職を目指す<家族になる 里子・里親の今>4


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「悩みを抱える子どもたちを支援したい」と語るゆうかさん。大学院進学を目指し、勉強を続けている=本島中部

 2歳の頃に里親家庭に迎えられた、本島中部在住のゆうかさん(22)=仮名。体内の細胞の働きが弱く、全身の筋肉や神経などの機能が低下する難病と闘いながら、現在大学で心理学を学んでいる。公認心理師の資格を取得するため大学院進学を希望し、将来は悩みを抱える子どもたちを支援したいと考える。そう思うようになったのは、自らの経験がきっかけだ。

 5歳の頃から始まった実親との面会。初めは面会場所の児童相談所へ遊びに行く感覚だった。成長するにつれ、気が進まないことも増え、関係づくりに悩むようになった。自分を抑え、相手の希望をかなえなければと思った。

 悩みは尽きず、里親や里子、児童養護施設で暮らす子らの相談支援を行う「こころサポート」に足を運んだ。臨床心理士の女性に心境を打ち明けた。「連絡するのは、ゆうかが連絡を取りたいと思った時でいい」。そう返ってきた言葉に、自分の気持ちを優先してもいいと気づいた。心がふっと軽くなった。その頃から、自分と同じような境遇にいる子どもたちの応援をしたいと考え始めた。

 里母は学業に関して特に厳しく、ぶつかることも多かったが、自然と勉強する習慣が身についた。幼い頃から読み聞かせをしてくれた影響もあり、本を読むことも日常に。「おかげで進学でき、好きな専門分野にも出合えた。これまでずっと支えてくれた両親に感謝している」。大学院入試の準備のため、多くの時間を大学内で過ごす。勉強の合間を見つけては、活用できる奨学金を探している。

自立後、生活厳しく ケアリーバー孤立させぬ社会に

県内5カ所にある里親や里子らの相談支援を行う「こころサポート」の一つ。県里親会が運営する窓口があり、ゆうかさんも足を運んでいる

 全身の筋肉や神経などの機能が低下する難病と闘いながら、大学で心理学を学んでいる本島中部在住のゆうかさん(22)=仮名。2歳から共に過ごす、里親の両親のサポートを受けながら大学院進学を目指している。

 制度上、里親家庭で生活できるのは原則18歳まで。ゆうかさんは社会的養護が必要として20歳までの延長が認められた。厚生労働省は2017年度から、里親家庭や児童養護施設で生活する子どもが、22歳の年度末まで支援を受けられる「社会的養護自立支援事業」を始めた。

 ゆうかさんが20歳を迎える前、里母はこの事業による生活支援を求めて、実施主体の県に意見書を提出した。県から必要性が認められ、来年3月末まで居住費や生活費を受給できるようになった。県によると、県内で同事業の支援を受けるのは現在、ゆうかさんを含め2人だけだ。

 児童養護施設や里親家庭を離れた子どもたち(ケアリーバー)は、原則18歳で「自立」を求められる。今年4月に厚労省が公表したケアリーバーに関する全国調査によると、月々の収入より支出が多いと答えた人は全体の22.9%だった。金銭的な理由で医療機関を受診できなかった事例も報告され、子どもたちの厳しい生活実態が明らかになった。

 ゆうかさんは来年4月から、社会的養護自立支援事業による援助はなくなる。大学院進学を機に1人暮らしを望んでいるが、体への負担を考え医師からアルバイトと学業の両立は難しいと言われている。里親の両親は、ゆうかさんが進学して自立する将来を見据え、過去に支給された里親手当や生活費をできる限り貯金に回してきた。大学院を卒業するまで、経済的に支えるつもりだ。

 里母は温かいまなざしで語る。「20歳を過ぎ、制度上は里親・里子の関係はなくなったが、共に暮らしてきた家族だ。『この子の命を守りたい』とずっと必死だった。病とうまく共存し、自分を主体にした幸せな人生を送ってほしい」

 同時に、施設や里親家庭を巣立った子どもたちが、周囲から孤立することのない社会と支援制度の拡充を強く願っている。

(吉田早希)