「子ども共に成長するのが親」障がいも個性 時間かけて見守り<家族になる 里子・里親の今>6


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「おとうさんおしごとがんばってね」とのメッセージを添えて結さんが書いた聡さんの絵(画像は一部加工しています)

 注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラムでパニックになりやすかった結さん(11)が幼稚園で迎えた初めての運動会。里親の大川聡さん(58)の心配をよそに、結さんは準備体操から行進など演目が終わるまで、友達らとしっかりやり遂げた。家庭以外にも自分が落ち着ける場所をつくっていく「息子」の成長に「今思い出しても涙が出そうになる場面です」と聡さんは振り返った。

 結さんが里子として聡さんの家族になったのは2015年。当時5歳。受託していた里親の事情で、児童相談所や県里親会が次の委託先を探していた。既に軽度の知的障がいがある波斗さん(16)を受け入れており、聡さんは障がいのある子をもう一人育てることに不安はあった。しかし、生前の妻・初子さん(享年59)が笑顔で語った言葉が背中を押した。「前情報では分からないから、見守ってあげましょう。大丈夫」。受託を決めた。

 受託直後の結さんは感情の起伏が激しく、予定通りいかないとかんしゃくを起こし、家具を壊すほどだったという。それでも「子どもと共に成長するのが里親」と聡さん。予定を決め過ぎず、パニックになりやすい状況になっても結さんが少しずつ慣れるように時間をかけた。

 里親会の研修も心強く、「障がいある子の育て方を学べる勉強会もゆんたく会もあり、問題があればみんなでサポートしてくれる」とよりどころになっている。聡さんらの思いに応えるように結さんは落ち着くようになり、今では特別支援学校で児童会長を務めるなど、成長を実感している。

 里親になる前は「人の子に何かあったら大変」と反対していた聡さんの母キヨさん(86)だったが、里子2人の成長が「かわいくてしょうがない」と、顔をほころばせる。17年に妻の初子さんが亡くなった後は、寝起きの悪い結さんを学校に通わせる準備をするのが日課だ。手を焼かせる「孫」がかわいく、「今は手放したくないさ」と良き理解者だ。

「お兄ちゃん大好き」と膝の上ではしゃぐ結さん(左)を抱き締める波斗さん=10月12日

 結さんは兄の波斗さんも慕う。波斗さんの膝に座り「お兄ちゃん、かっこいいから好き」と笑顔ではしゃぐ。波斗さんは里子として聡さん宅に来た当時、聡さんの実子の光さんの接し方を覚えている。「自分もお兄ちゃん(光さん)が優しくしてくれたので、家族になった感じがしたことを覚えている」と、やんちゃな弟を抱き締めた。

 厚労省の児童養護施設入所児童等調査によると、里親に委託される児童の約4割が心身に障がいなどがある。そのうち波斗さんや結さんのような知的障がいは8・6%、ADHDは5・5%、自閉症スペクトラムは6・7%となっている。

 波斗さんと結さんを育てる聡さんは、障がいも子どもの個性の一つと受け止める。里親を希望する人に対して聡さんは「子育てにいろんな不安があるのは実子も同じ。困った時は児童養護関係の組織が連携して支援してくれるので、障がいがあっても地域で育てられる。思い切り一歩踏み出してみれば自分も成長できる」とメッセージを送った。

 (嘉陽拓也)