[日曜の風・浜矩子氏]新しい資本主義いらない 岸田首相の緊急提言


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浜矩子 同志社大・大学院教授

 岸田文雄首相が立ち上げた「新しい資本主義実現会議」の「緊急提言」が出た。副題に「未来を切り拓く『新しい資本主義』とその起動に向けて」とある。これを読めば、岸田氏が言う「新しい資本主義」の何たるかが分かる。そう考えてこの提言を読み進んだ。

 だが、結局のところ、どこが新しいのかは分からなかった。岸田氏すなわちアホダノミクス男は、資本主義というもの自体をどう捉えているのか。この点も、判然としては来なかった。「新しい」資本主義という言い方をする以上、そこには「古い」資本主義に関する明確な認識がなければならない。さもなくば、何がどう新しいのかは語れない。

 この辺のところについて、「新しい資本主義実現会議」の面々はどう考えているのだろう。このとても肝心なところをスキップして、大急ぎで、取りあえず今風なテーマと言葉を羅列した。この印象がとても強い提言だ。その意味で、確かに「緊急感」がにじみ出ている。

 そもそも、なぜ、資本主義でなければいけないのか。別段、社会主義体制や共産主義体制に移行しろと言いたいわけではない。なぜ、あえて「資本主義」という言葉を前面に打ち出しているのか。それが不思議なのである。ひょっとすると、チームアホダノミクスは資本主義体制を守り抜くことを最優先課題として受け止めているのだろうか。だからこそ、リニューアルしてまで、その延命を図る。そこに目的意識があるのかもしれない。そのように思えてきた。

 もしそうだとすれば、大問題だ。今、彼らに託されているのは、世のため人のために尽くし切る政治と政策の新体系の確立だ。この国の政治が、少なくとも戦後において一度たりとも持つことができていなかった構え。今、それが求められている。なぜなら、今のこの国には格差がある。豊かさの中の貧困がある。救済を求める弱者が存在する。それらの人々のためにもらい泣きできる目。どうすれば、日本の政治はそのような目を持てるようになるのか。それを考えてほしい。必要なのは、「新しい資本主義実現会議」ではない。「真の人本主義実現会議」だ。

(浜矩子、同志社大・大学院教授)