[日曜の風・香山リカ氏]「イヤ」と伝えよう 「太陽」ではなく


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 イソップ寓話(ぐうわ)の「北風と太陽」は誰もが知るお話だ。北風と太陽が、「旅人に上着を脱がせた方が勝ち」という勝負で、北風が強く吹けば吹くほど旅人は上着を押さえる。次に太陽が暖かい日差しを送ると、旅人は上着を自ら脱ぎ出した。「北風と太陽」は、「誰かを説得するときは、脅すよりもおだやかさで臨む方が効果的」という教えとして知られている。

 しかし、本当にこの教えは正しいのだろうか。日米両政府が米軍普天間飛行場の返還に合意してから、既に25年が経過した。返還が実現しないまま、政府は名護市辺野古の新基地建設を強行しようとしている。選挙や県民投票の結果というまさに「太陽」のようなおだやかなやり方でいくら民意を示しても、政府はまったく耳を傾けようとしない。

 「慰霊の日」の追悼式で中学生が感動的な「平和の詩」を読み上げても、政府の態度は変わらない。沖縄の人たちも「いつまで“太陽”を続ければいいの」といいかげんにしびれを切らしているのではないだろうか。

 心理療法の現場でも、最近は「イヤなことをはっきりイヤと伝える」など自己主張の大切さが認められている。もちろん暴力や脅迫などの手段を使うのは間違っているが、こちらが優しく穏やかにしていても、相手は気付いてくれない、あるいはわざと気付こうとしないこともあるのだ。そういうときは我慢したり遠慮したりせずに、「私はそうしてほしくないのです」とキッパリと自分の考えや思いを伝えるべき。この「アサーション」という考え方はいま世界で広く知られ、トレーニング法の本もたくさん出ている。

 「いつか分かってくれるはず」と思っていても、なかなか相手は分かってくれない。そんな思いを味わっている沖縄の皆さんだが、これからもさわやかにしなやかに自己主張できる人であってほしいと願っている。もちろん、全国の仲間がそれを精いっぱい応援していることも忘れないでほしい。

(香山リカ、精神科医・立教大教授)