【深掘り】水際対策を勝手に骨抜き…米軍を止められない日米地位協定の壁


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 新型コロナウイルス対策を巡り、在日米軍は国をまたぐ移動や人事異動に当たって米本国など異動元と日本入国後に、それぞれ14日間の隔離とPCR検査を実施すると説明していたが、日本側に知らせず一方的に対策を緩和していた。日本政府や米軍は水際対策について「日本の検疫に見合う措置を取る」と主張してきたが、日米地位協定を背景に米軍の行動を制御できない実態がある。その結果、県民の健康が脅かされる深刻な事態となっている。

 最初に県内の米軍基地で (感染者集団)が発生したのは2020年7月初旬。当時は入国時と出国時に14日間の隔離をしていたが、症状がない関係者には検査をしていなかった。韓国やオーストラリアに入る米軍関係者は2度、PCR検査を受けており、対応の差が問題となった。

 県や県議会からも批判を受け、米軍は出入国時の検査を始めた。部隊異動時に検査で感染者を見つけるなど水際対策として機能していた。

 だが、ワクチン接種が進んだ今年9月以降、在日米軍は2回接種済みなら出国時の検査義務付けをやめていた。入国後の移動制限も14日間から10日間に短くし、期間中も米軍施設内で動き回ることができ「隔離」とはほど遠い状況だった。

 県の糸数公医療技監はワクチン接種後に感染する「ブレイクスルー感染」に触れ、「ワクチンだけで行動を緩和するのは感染対策上かなりリスクが高い」と指摘する。

 日本政府は今月1日、オミクロン株の水際対策で外国人の新規入国を禁止した。最短3日に短縮していた日本人帰国者らの待機期間も一律で14日に強化。一方で在日米軍の対策緩和は続いた。日米地位協定で米軍は日本の検疫を免除され、自ら検疫手続きを決めることができるためだ。

 水際対策の緩和が表沙汰になったのも、クラスター発生後だ。基地と隣り合わせで暮らす県民の健康に直結する問題にもかかわらず、フェンス1枚を隔てると日本政府や県が関与できずブラックボックスとなっている。

 県関係者は「引き続き出入国時にPCR検査をしているという認識だった。対応を変えるなら、せめて知らせるべきだ」と語った。
 (明真南斗)