琉球新報短編小説賞に2人同時受賞 作品に込めた思いや今後の創作活動は


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 第49回琉球新報短編小説賞に決まった奈穂(なほ)カネーロ(本名・金城尚子)さん(74)=那覇市=と、赤星十四三(あかほしとしぞう)(本名・仲程俊明)さん(47)=うるま市=は、受賞の知らせを受けて驚くと同時に、謙虚に受け止めた。それぞれの作品に込めた思いや今後の創作活動などについて聞いた。 (古堅一樹)


30年ぶり執筆で快挙 奈穂カネーロさん『少女達よ永遠に』

創作の経緯について語る奈穂カネーロさん=21日午後、那覇市泉崎の琉球新報社(又吉康秀撮影)

 受賞の知らせを電話で受けた際には「びっくりした」と話す奈穂カネーロさん。応募したものの、受賞は期待していなかったという。想定外の朗報に驚きつつも「74歳の私に賞をくださるのはありがたい。私と同じ世代の人々が元気になって頑張れる励みになってほしい」との思いが湧いた。

 受賞作「少女達よ永遠に」は横浜生まれ女性が主人公。小学5年生の時に住んだ沖縄の離島で同級生の少女と出会う。子どもの頃の交流が伏線となり、島で起きた戦争の悲劇を知るなど、物語が展開する。

 初めて本格的に小説の書き方を学んだのは、35歳の時。琉球新報カルチャーセンターで作家・長堂英吉さんの講座に通った。講座で学んだ基本を踏まえて応募した九州芸術祭文学賞では沖縄地区の次席となった。43歳の時には新沖縄文学賞で佳作に選ばれた。

 その後、仕事も忙しくなり、書く機会はなかった。退職して自分の時間ができた中、双子の妹に応募を勧められたことをきっかけに、約30年ぶりに小説を書き、快挙につながった。

 夫・政彦さんは2019年1月に病気で亡くなった。小説を書く時には喜んで応援してくれていた政彦さんに手を合わせ、受賞を報告した。今後へ向けて「1年に1作ぐらいは書きたい。今度は少年が主人公の物語を書いてみたい」と意欲を見せた。


「夜の海」空想し着想 赤星十四三さん『今度、チェリオ持ってくる』

創作への思いなどを語る赤星十四三さん=17日、沖縄市の琉球新報社中部支社(古堅一樹撮影)

 留守番電話やショートメッセージの受信に気づいて電話を折り返すと、受賞を伝えられた。赤星十四三さんは「びっくりした。意外で実感がなかった。自信がなく、期待していなかった」と話し、驚きとともに受け止めた。

 受賞作「今度、チェリオ持ってくる」は、30年前の小学3年生の夏、海で亡くなった友人について同級生たちが探る。終盤にかけて亡くなった友人に何が起きていたのか明らかになっていく。

 物語の着想は、夜中に海へ行く人たちの姿や光景を頭の中で思い浮かべたことから。「なぜ、この人たちは夜中に海へ行くのか。誰かを弔いに行っているのか」など思いついたことをノートに書き、イメージを膨らませた。実際、地元の海岸へ足を運び、描写や設定の参考にした。

 作品中、今の30代、40代が友人同士で使うようなウチナーグチとヤマトグチが混じった言葉遣いも時折、登場する。例えば「はっさ。あらいな」(すごいな)、「えー、嘘(ユクシ)だろ」などのように表記した。等身大のやりとりや「柔らかくする」ことを意識し、沖縄ならではの表現を織り込んだ。

 創作活動をさらに続けていく考えだ。「なかなか結果が出ない難しい世界なので、一喜一憂せず、こつこつ書いていきたい。エンタメ系の長編も書いてみたい」と次作を見据えた。


<審査員講評>奈穂さん「冗漫さ抑え奥深い」 赤星さん「語りに表現力ある」

 応募作45編を予備選考で5編に絞り、芥川賞作家の又吉栄喜、文芸評論家の湯川豊、元琉球大教授で詩人・作家の大城貞俊の3氏で最終選考を実施した。

 「少女達よ永遠に」は沖縄の離島に住んだことがある横浜生まれの女性が主人公。島の少女との交流で、島での戦争の悲劇を知る。「耳の不自由な少女に戦争を仮託している。冗漫さが抑えられ奥が深い」(又吉氏)、「素直な作文だが、そのなかにキラリと輝く美しいものがあった」(湯川氏)、「少女たちの出会いと記憶で戦争の悲劇を紡ぎ出す着想にユニークさを感じた」(大城氏)などの意見が出た。

 「今度、チェリオ持ってくる」は30年前に海で亡くなった友人について主人公の男性が同級生らと調べ、当時の状況が明らかになる。「語りにリズムや表現力がある。主人公に自分の人生を重ねられる良作」(又吉氏)、「候補作品で唯一、小説としての文体を持っていたことを高く評価する」(湯川氏)、「海で亡くなった友人の死の原因を探ることをミステリー仕立てに展開し面白さを感じた」(大城氏)などの指摘が上がった。