好景気でも全国最下位水準の県民所得 沖縄の企業の課題は?<沖縄経済の針路>1


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 県内の新型コロナ新規感染者が1年4カ月ぶりにゼロとなった昨年11月、久しぶりに沖縄の地を踏みました。傷んだ国際通りを歩くと、やはり言葉になりません。県庁前交差点のランドマークだった土産店がコロナ検査センターに変わっているのは、皮肉で象徴的な光景です。報道によると、年末年始の観光客が上向いているとのこと。引き続きコロナの状況が懸念材料ですが、県経済の回復を切に願っています。

 振り返ると、私が日銀那覇支店に着任した2018年5月は、観光業を中心に空前の活況を呈していました。しかし同時に、「これだけ景気がいいのに、なぜ沖縄県の所得は全国最下位水準なのだろう」という素朴な疑問を持ちました。そこで、早速分析を行い、同年10月に「沖縄県の所得水準はなぜ低いのか(現状・背景・処方箋)」というリポートを公表しました。

 要約すると、「問題の本質は、企業の利益が全国最低水準で、せっかくの好景気を十分に生かせていない点にある」「企業もない袖は振れない。無理に利益を削って雇用者の給与を増やしても長続きしない」「必要なのは、生産性の向上などを通じて企業の収益力(稼ぐ力)を強化し、雇用者の待遇改善につなげることである」「好景気の追い風が吹いているうちに収益力を高め、給与水準を向上させる土台を構築することが望まれる」「これは、他の課題(非正規雇用率や子どもの貧困率の高さなど)の解決にもつながる根本的な処方箋である」という内容でした。

 また、分析のみの評論家で終わらぬよう、企業の取り組みをサポートすべく、翌年2月に「生産性向上・収益力強化に向けた全国・県内企業の取り組み」という追加リポート(具体的な事例集)を公表しました(2本のリポートは、日銀那覇支店のHP「うちなー金融経済レビュー」のコーナーに掲載しています。ぜひご覧ください)。

 これらの考え方は県の施策に採用され、キーワードの「稼ぐ力」をテーマにした万国津梁会議が開催されたほか、次期振興計画の柱の一つにもなっています。実際の政策立案に生かしていただけると、分析・提言したかいがあります。

 今般のコロナ禍を克服した後も、必ず景気は循環します。「稼ぐ力」の強化は、「好景気を十分に取り込む(山を高くする)」だけでなく、「不況時の経営耐性を強くする(谷を浅くする)」ために不可欠です。官と民が連携しつつ、コロナ禍からの回復を通じて企業の「稼ぐ力」を強化していくことは、県経済にとって1丁目1番地の課題です。

 2年半の在任期間中、天国から地獄への激変過程を含め、県経済をマクロとミクロの両面から分析し、一通りのことは分かったつもりになっていました。しかし、本土から改めて沖縄県を見ると、島の内部にどっぷりと漬かっていた時には見えていなかった本質のようなものがクリアになってきました。

 復帰から50年がたちますが、本土の沖縄県に対する評価は、ちまたにあふれる沖縄本を見ても分かる通り、いまだに「過度の礼賛・美化」か「根拠の不確かなディスり」のどちらかに偏りがちで、違和感を覚えます。本欄では、どちらにもくみすることなく、沖縄愛を心底に秘めつつ、日銀時代には立場上、言いにくかった問題提起も含め、中長期的・構造的な課題を取り上げていきます。しばらくの間、お付き合い願います。
 (元日銀那覇支店長)


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  沖縄が日本に復帰して今年で50年。県民所得が全国最下位水準で貧困問題を抱えるなど県経済の課題は多い。沖縄の経済を鋭い視点で見つめてきた元日銀那覇支店長の桑原康二氏に現状分析を基に提言をしてもらう。

桑原康二

 くわはら・こうじ 1965年広島県生まれ。シェークスピアと西洋美術史の研究者を志し、東京芸大を志望するが断念し、東京外大・英米科に入学。紆余(うよ)曲折を経て再度方向転換し、89年に日本銀行入行。那覇支店長などを務め、現在は会社役員。