首里城地下の日本軍第32軍司令部壕を巡り、県の整備の計画や時期が不透明な中、第5坑口周辺で急速に開発が進んでいる。壕の保存・公開を求める市民は懸念を強め、玉城デニー知事に対して開発の防止を求める陳情を提出した。
32軍壕は五つの坑口があるが、首里金城町の第5坑口以外は場所が確定していない。第1坑口は首里城公園内、第2、3坑口は城西小学校内、第4坑口は首里金城町の民家の下にあるとみられる。第5坑口がある民有地に隣接する山はのり面が削られるなどマンション建設が進み、北側の旧内閣府宿舎跡地は別の不動産業者が土地を取得。第5坑口は開発地に挟まれる格好となっている。
文化財指定
第5坑口の民有地が開発される懸念について、県教育庁文化財課は「今のところ確実な開発計画はない」と話す。
ただ、県内では、多くの戦争遺跡が開発によって姿を消した。破壊を防ぐ手段として、戦争遺跡として文化財に指定する方法も考えられる。県の「第32軍司令部壕保存・公開検討委員会」でも、委員から壕の文化財指定を求める意見も出た。
県は「保存と活用は矛盾する」との立場を示し、文化財として指定して「保存」する場所と、「公開」して活用する場所を分ける方向で検討を進める。保存、公開する場所は、第1坑道の調査を終え、基本構想で決めるとしている。
根強い不満
県の案に対し、検討委員会の委員からは「文化財指定しても公開はできる。分けるのは良くない」(大城和喜氏)との意見が出ている。県が示したスケジュール案に対して不満も根強い。県は21年12月に開いた検討委の会合で、第1坑道の調査を優先的に進め、26年度までに試掘調査を完了するとの行程を出した。
調査を踏まえ、基本構想を策定し、27年度以降に整備するとしたが、委員からは「遅すぎる」との指摘が相次いだ。「第1坑道の調査と平行し、できる部分から先行して整備し公開するべきだ」として、第5坑口などの先行整備を求める意見も出た。
売却意向
文化財に指定された場合、土地の改変には強い制限がかかり、民有地であれば自治体が買い上げる場合が多い。第5坑口のある民有地の所有者は5日までに本紙の取材に応じ、「壕の保存・公開の動きがあるので、個人や業者には売却しない」とし、「県や市から話があれば売りたい」との考えを示した。
32軍壕の整備計画や時期が見通せない中で、開発の波や壕の劣化は迫る。第5坑口をどう残していくのか、県や那覇市の平和行政が問われている。
(中村万里子)
「開発の防止を」知事へ緊急要請 保存・公開求める会
「第32軍司令部壕の保存・公開を求める会」(瀬名波栄喜会長)は5日、県庁で玉城デニー知事に対し、日本軍第32軍司令部壕の公開に向けた緊急要請をした。要請文では、第5坑口周辺で開発が進んでいるとして、開発の防止措置を早急に取ることを求めた。
県は昨年1月から有識者らでつくる「第32軍壕保存・公開検討委員会」に諮問し、公開の在り方を議論している。
玉城知事は5日、同会が県庁1階ロビーで展示する日本軍第32軍司令部壕の坑道全体模型を視察し「専門家の意見を聞きながら、どういう風に実現できるか検討したい」と述べた。
(梅田正覚)