<ピアニスト・反田恭平インタビュー>悩む幸せ、奏でる意味…沖縄から公演始めた理由


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 昨年12月、浦添市のアイム・ユニバースてだこホール大ホールでピアニスト反田(そりた)恭平の全国5カ所を巡る凱旋(がいせん)コンサートの沖縄公演(NEXUS、イープラス、沖縄テレビ主催)があった。公演前に取材会が開かれ、沖縄公演への思いや「第18回ショパン国際ピアノ・コンクール」で日本人の最高位である2位を受賞した心境、ピアノを習う人へのアドバイスなどを語った。

マスコミ向けの取材会で沖縄公演への思いを語るピアニストの反田恭平=12月22日、浦添市のアイム・ユニバースてだこホール大ホール

 Q:自身で公演場所を決め、スタート地に沖縄を選んだ理由は。また沖縄の印象は。

 「2016年にデビューをし、これまでに45都道府県くらい回った。その中から自分が好きな所、思い入れのある場所を最優先したら、最初が沖縄だった。これだけすてきなホールがあるということを沖縄に来るまで知らなかった。ホールとピアノの相性がよく考えられて、バランスの良い音響効果もある。前回のリサイタルで弾いた時にすごく盛り上がった。いろいろと思い出が深くあった。プライベートでも年に2、3回は来て自然にインスピレーションをもらっている」

 

◆好きなとき、好きな人のために…

 Q:浦添市で子どものための音楽のフェスティバルを作りたいと。ピアニストを目指す子どもや青少年に対して上達のコツ、また吸収してほしいことは。

 「子どもが多いのは沖縄県の特徴。浦添市は芸術に取り組んでいるというイメージもある。子どもたちのために何か力添えできるのであれば、ぜひここでフェスティバルを作りたいと考えている。子どもたちにクラシックの良さというのを知ってもらいたい。何事もそうだが『継続はしてほしい』と強く言いたい。つらいことや大変なこともあると思うが、僕の場合はピアノがそばにあったからいつも弾いていたし、何よりも大切なことは自分が思ったように弾くこと。先生は先生で(能力を)伸ばしてあげて、それで子どもたちも楽しく自由に弾く。僕の活動のモットーや源にあるのは、好きな時に好きな人のために弾いてあげたり、自由に弾くことだ。そして良い音楽に触れること。あとは体幹(も鍛える)。僕自身もオーケストラの指揮を振ってみて、初めてクラシック音楽がかっこいいと思った瞬間があった。そういう場所をつくっていきたい」

 Q:ショパン国際ピアノ・コンクールの結果を受けた時の気持ちを聞かせてほしい。

 「一人じゃ取れない賞だった。エントリー前から本当に周りの方に助けていただいた。賞を勝ち取る過程でいろいろと試行錯誤し壁もあったが、やっぱり頑張って良かったとすごく思う。表舞台に立つ人間は見えない所で相当苦しい時もある。だけどその分、それ以上の幸せや夢が待っている。純粋にうれしかった。これからどんどん道が開けていくんだなと感じている」

 

オールショパンプログラムによる曲目で、観客を魅了するピアニストの反田恭平=12月22日、浦添市のアイム・ユニバースてだこホール大ホール

◆ショパンが人生をつくってくれた

 Q:ショパンの作品や作曲家についてどう感じるか。

 「好きなように好きな作品を弾いてきた幼少期が僕にはあって、だからこそピアノが嫌いになれなかった。その時に聞いていた作曲家の多くはショパンでもあった。その時の感情が残っているから、僕にとってはかけがえのない存在だし、ショパンが人生をとてもつくってくれた」

 「正直これという答えはない。ただもしかすると、ポーランドと日本という歴史的に戦争などの背景が重なっていたりする部分もある。国を思い何かにすがる思いで生きてきたという所が一つの琴線に触れるポイントではないかと思う。僕にとってショパンは全てでもあるが、あくまで一人の作曲家でもある。ピアニストとして音楽家としてこれからさまざまな作曲家と向き合わなければならない。ショパンをたまに弾きつつ、オールラウンドな演奏家になっていきたい」

 Q:コロナ禍に音楽サロンを立ち上げるなど精力的な活動を展開している。演奏機会を失う人々にもメッセージを。

 「年間何万人という音楽大学卒業者が出ているが、将来どうしようと思っている人はたくさんいると思う。強く思うのは、何のためにピアノをやったのか、何のために音楽が好きなのというのを常々、自分に質問するべきではないかと思う。僕もいつも誰のために、何のために弾くのかというのを常に考えている。もしかしたら明日は違うかもしれないし、状況やホールによっても違う。『何かのために』というのがクラシック音楽の一番のすてきなポイントだと思う。考えることがあるというのは本当に幸せだ。考えることがない人生は深みが増さない。悩むというのは常にあるが、悩むことは幸せなことだとポジティブに生きている」 (田中芳、写真も)