prime

沖縄の「ザル経済」、他県より強く感じるのはなぜか?<沖縄経済の針路>2


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「ザル経済」からの脱却は、従来から指摘されている県経済の構造的な課題です。「ザル経済」とは「県内の需要を県外企業が獲得している」「県内で発生した売上高や利益が県外に流出し、地元企業の利益や県民の所得に十分に還元されない」といった経済構造を指します。

 沖縄県の場合、経済の特徴(製造業のウエートが全国最下位で、観光業や建設業のウエートが高い)を反映し、以下のような事象が発生しています。

 (1)県内で生産できないさまざまな財(原材料・中間財や製商品)を県外から調達する度合い(外部依存度)が高い。

 (2)民間建築(ホテル、商業施設、マンション)や公共事業が増加しても、規模の大きな案件は本土ゼネコンが受注してしまう。本土ゼネコンが主導するJV(共同企業体)に地元企業が参加できても、出資比率の関係で利益率が低くなる。単なる下請けだと、さらに利益率が低下する。

 (3)観光客が増加しても、本土・海外資本のホテルに流れてしまう。

 ただ誤解されている方が少なくないのですが、これは沖縄県に固有の問題ではありません。日本全体を俯瞰(ふかん)すると、大手企業が拠点を置く大都市圏以外では、程度の差はあれ、「ザル経済」の事象が発生しています(本土では、英国のシンクタンクが提唱した「漏れバケツ経済」という表現が使われています)。

 では、全国的に見て、沖縄県の「ザルの網目」はどれくらい粗いのでしょうか。それを測る手法の一つに「地域経済循環率」があります。紙幅の関係で詳細は割愛しますが、この比率が高いほど、「地域経済が自立している(外部に依存しない、いわば『地産地消』の状態にある)」「所得が外部に流出せず、域内で循環し、経済が拡大している」という状態(「ザル経済」でない状態)にあると言えます。

 琉球大学学長等を歴任された大城肇氏や民間シンクタンクが47都道府県の「地域経済循環率」を分析しています。いずれの分析でも「地域経済循環率」が高いトップ3は、東京都、大阪府、愛知県、ワースト3は、岩手県、奈良県、埼玉県の順で、沖縄県は下から4番目です。現在の沖縄県は全国最下位ではありませんし、ワースト3県でさえ、「ザル経済」の現象が沖縄県ほど問題視されている訳ではありません。この「温度差」はなぜでしょうか。

 一つには、沖縄県の「ザル経済」構造が苦難の歴史の反映であることが挙げられます。戦後、米国の統治下では、本土の高度経済成長の果実を享受できず、域内産業の育成も行われませんでした。むしろ「本土の円に対する強いドル」の下、本土から多くの物資が安価に調達されました。既にこの時点で、自給率が低く外部依存度の高い「ザル経済」の状態が確立されていた訳です。

 また、日本復帰後は、自立経済の育成を目的とする「振興(開発)計画」の効果などから経済状態は改善されましたが、本土企業の本格的な進出などもあり、基本的には「ザル経済」の状態が続いてきました。特に最近では、(コロナ禍前は、)県経済が本土よりも活況を呈しているのに、地元企業や県民が必ずしもその恩恵を実感できず、その要因の一つである「ザル経済」のデメリットを強く感じていることが挙げられます(言い換えれば、地元企業の「稼ぐ力の弱さ」を肌で感じているとも言えます)。

 では、この状態を改善し「ザルの網目」を細かくしていくにはどうすればいいでしょうか。次回は、この点について具体的に考察します。
 (元日銀那覇支店長)


   ◇   ◇   

  沖縄が日本に復帰して今年で50年。県民所得が全国最下位水準で貧困問題を抱えるなど県経済の課題は多い。沖縄の経済を鋭い視点で見つめてきた元日銀那覇支店長の桑原康二氏に現状分析を基に提言をしてもらう。


 くわはら・こうじ 1965年広島県生まれ。シェークスピアと西洋美術史の研究者を志し、東京芸大を志望するが断念し、東京外大・英米科に入学。紆余(うよ)曲折を経て再度方向転換し、89年に日本銀行入行。那覇支店長などを務め、現在は会社役員。