再編交付金、民主主義に反する(川瀬光義・京都府立大名誉教授)<名護市長選の結果を読む・識者の見方>3


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川瀬光義・京都府立大名誉教授

 再選された渡具知武豊氏が進めた給食費無償化など子育て支援策の財源となっている再編交付金は、民主主義国家において決してあってはならない財政政策である。その最大の理由は、辺野古新基地建設について市長が「反対」を唱えただけで不交付となること、つまり国の政策に対する意見の相違を理由として公的資金配分の是非が決められているからである。

 いうまでもなく、民主主義社会において思想信条の自由は絶対に尊重されなければならず、公的資金の配分は客観的かつ公正な基準によらなけなければならない。

 再編交付金は、米軍再編で負担が増える自治体のみが対象である。米軍再編によって予想される騒音などの環境破壊への対策ならそれでもよい。しかし子育て支援の充実は、米軍の存在と直接関連するものではなく、どの自治体でも充実が求められる施策である。そうした政策の充実を自治体に促すべく政府が補助金などを交付する場合、すべての自治体に応募の機会が開かれていなければならないのであって、政府の政策に異を唱えない自治体のみを対象とすることは民主主義と決して相いれない。

 そもそも子育て支援は、軍事による安全保障を主たる業務とする防衛省が所管する施策ではない。防衛省は、本来業務と関連がない施策に財政資金を投じないと新基地建設を受け入れてもらえそうにない、つまりその必要性を言葉によって説得する自信がないということであろうか。

 周知の通り、新基地建設について名護市民は、1997年末の住民投票で「否」という意思を示している。にもかかわらず、民意を一切顧みることなく、このような不適切な資金を投じるなどして四半世紀もの間名護市民を苦しめてきた日本政府の不条理な行いこそ、問題にするべきであろう。

 本紙1月20日付報道によると、岸本洋平氏が再編交付金に頼らない方針を示していることから、渡具知陣営からは年間約7億円の財源確保策について疑問が呈されたとのこと。渡具知氏もよく認識されているように、この交付金は期限がある。そのときにどう財源を確保するかについて、渡具知氏も具体案を示すことが求められているのではないか。
 (地方財政学)