交付金でもの言えぬ自治体 「アメとムチ」で地域を分断(井原勝介・元岩国市長)<名護市長選の結果を読む・識者の見方>5


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井原勝介・元岩国市長

 「民意はわれにあり」。今回の選挙結果を受けて国はこう言うかもしれないが、それは違う。選挙は「人」と「政策」を選ぶものであり、争点は複数あるはず。また、工事が強行される中で「あきらめ」の気持ちも生じてくる。いわばお金と力で作られた結果にすぎない。

 一方、住民投票では一つの問題について住民が直接自由に意思表示をする機会が確保され、その結果は、本当の民意に近いものと言える。2019年に辺野古移設に関する県民投票が行われ、7割が反対という明確な結果が示されている。まさに圧倒的な民意であり、国はこれを尊重して米側と再交渉すべきである。さもなくば、民主主義を標榜(ひょうぼう)する資格はない。

 岩国市(山口県)でも10年以上にわたり再編交付金を使って子どもの医療費や給食費の無料化などが行われ、一部の人たちは恩恵を受けてきた。しかし、今ではこうした施策は珍しくなく、これによりまちが発展したわけでもないし、むしろ人口は急激に減少している。言うまでもなく、再編交付金は基地負担の見返りであり、岩国でも基地の機能は強化され、騒音などの被害も格段に増加しているが、行政は国に対してものが言えない状態にある。

 今回のコロナ騒動にしても、日米地位協定の不備が原因であるが、基地ゲートを通じて米本土と直結している限り避けられない危険があることを改めて思い知らされた。いつの間にか台湾有事は日本の有事などと言われ始めており、沖縄が再び戦場になる危険性も高まっている。新たな基地が建設されることの危険性をもう一度考えてみる必要がある。

 「国防は国の専管事項」などと言われるが、国民の協力なくして国防が成り立たないことも自明である。「アメとムチ」で地域を分断し、民主主義と地方自治を踏みにじるようなやり方は、国や米軍に対する不信や反感を高め、長い目で見れば誰も得をしない。
 (おわり)