<書評>『首里城地下 第32軍司令部壕 ―その保存・公開・活用を考える―』 司令官の孫からの提起


社会
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『首里城地下 第32軍司令部壕 ―その保存・公開・活用を考える―』牛島貞満著 高文研・1650円

 首里城焼失が契機となり、地下にある32軍司令部壕の保存・公開を求める声が高まりをみせている。司令部壕の概要や保存・公開に関する論点を網羅した本書は司令部壕や沖縄戦を学ぶ者にとっては絶好の解説書となろう。著者は第32軍司令官、牛島満の孫である。

 1990年代にも学徒隊の生存者や平和団体が司令部壕公開を求め、県は公開を念頭に詳細な調査を実施している。米軍が45年に作成した報告書と90年代の県調査は司令部壕の現状を知る上で重要であり、本書はその内容に触れながら調査の意義を論じている。

 著者も足繁く沖縄に通い、独自の調査に取り組んできた。97年には司令部壕の内部に入っており、貴重な映像記録を残している。県や日米双方の資料を駆使し、現場を丹念に歩きながら著者は司令部壕の謎解きに挑む。司令官室や「シャフトA」と呼ばれる縦坑の位置を探り、司令部壕を巡る諸説を検証する。

 著者の謎解きは祖父にも向かう。3説ある牛島司令官の自決日(45年6月20日、22日、23日)のいずれが正しいかを追究する。牛島司令官、長勇参謀長の自決現場という米軍撮影の写真を疑問視し「摩文仁司令部壕ではない」と断定する。

 ページをめくって思うのは「私たちは司令部壕の実像を知らない」ということである。この壕で32軍は沖縄戦の戦略持久戦を指揮し、住民に多大な犠牲を強いた日本軍の南部撤退を決めた。著者は住民を犠牲にした祖父の責任と厳しく向き合い、司令部壕の実像を丹念に描き出そうとする。

 自身の戦争体験を基とした記録文学を残した大岡昇平は「レイテ戦記」のエピローグで「死者の証言は多面的である。レイテ島の土はその声を聞こうとする者には聞こえる声で、語り続けているのである」と記した。

 沖縄戦体験の証言も多様である。著者は司令部壕を見つめ、さまざまな声を聞いたであろう。その集積を踏まえ「沖縄戦の過ちを学ぶ場」としての32軍司令部壕の具体的な保存・公開方法を示す。沖縄戦の実相を記録し、後世へ伝えるための貴重な提起である。

 (編集委員・小那覇安剛)


 うしじま・さだみつ 1953年東京都生まれ。元小学校教諭。祖父は陸軍第32軍司令官だった牛島満中将。2004年から東京、沖縄で「牛島満と沖縄戦」をテーマに授業を行う。


牛島貞満 著
四六判 160頁

¥1,650(税込)