劣化、開発…消えゆく地下壕 那覇13カ所で埋め戻し、専門家は調査と管理訴え


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 沖縄戦で使われたガマや壕の劣化が進み、平和学習で利用してきた場所が使えなくなる状況が起きている。平和学習では中に入って沖縄戦を追体験する方法もとられてきたが、事故防止の観点から自治体が立ち入りを禁止する場所も相次ぐ。国は陥没や防災対策として埋め戻しなどの費用を補助しており、那覇市でも国の一括交付金を使い、13の地下壕の埋め戻しなどを進めていることが分かった。

 沖縄戦研究者で沖縄国際大元教授の吉浜忍氏は「かつて県は慰霊塔や慰霊碑について管理を含めて調査したが、壕やガマも全体的な調査が必要な時期に来ている。第32軍司令部壕の保存公開にもつながる話で、県内で裾野(すその)を広げていく取り組みが重要だ」と指摘する。

 那覇市内の地下壕は市街化開発や防災対策で姿を消しつつある。那覇市まちなみ整備課によると、2017年度時点で市内には92カ所の地下壕が残っていた。市は同年の実態調査で壕内部の状況を調べ、16カ所を「危険」と判断。このうち13カ所を埋め戻し、3カ所の入り口にフェンスを設置した。子どもが入り込むことや、けがをする危険性などから判断した。これらの工事は、事業費が200万円以上など国土交通省の適用条件に当てはまらないため、国の一括交付金を活用した。

 このうち那覇市識名の識名壕は、安全対策の一環で市が21年2月にフェンスを設置した。今後の利活用については不透明な状況で、同壕で平和学習を行ってきた団体から活用の継続を求める声が上がっている。

 戦争遺跡を所管する市の文化財課は、地下壕の工事の際には、歴史地図や戦争遺跡の分布調査報告書で歴史的な位置づけを確認している。ただ、壕は戦争遺跡であっても、危険度に応じた対策や開発を優先せざるを得ないという。

 沖縄考古学会顧問で戦跡考古学が専門の當眞嗣一氏は「埋め戻す場合はそれがどのような壕で、なぜ残せないのか理由を説明するべきで、広く知らせずに埋めるのは問題がある。壕の多さは、沖縄戦がいかに過酷な状況だったかを表している。戦争遺跡として行政が管理し、戦争の教訓とする姿勢も重要だ」と強調した。
 (中村万里子)


<用語> 特殊地下壕
 国土交通省は1974年に「国土交通省所管特殊地下壕等対策事業実施要領」を定め、この実施要領に基づき、自治体が埋め戻しなどの事業を実施する際に補助を出している。同要領では「日本軍、地方公共団体、その他これに準ずるものが築造した防空壕など」と定義し、個人の築造はこれに含めない。市街地に現存し、陥没などが顕著で危険度が増し、事業費が200万円以上のものに限り2分の1以内を補助する。2005年、鹿児島市内の洞窟内のたき火で中学生が死亡した事故を受け、国は積極的に対策を進めている。

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