【記者解説】戦争遺跡の保存、自治体の姿勢に温度差…今の世代に問われるもの


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 沖縄戦から77年がたち、首里城地下の日本軍第32軍司令部壕の保存・公開の検討が進められるなど、戦争遺跡の保存・活用への機運が高まっている。自治体は安全上の理由から閉鎖や埋め戻しを急ぐが、地権者や開発、予算などの兼ね合いで保存や活用が難しい部分もある。那覇市は壕のある地域の同意を得た上で埋め戻したが、全ての壕で歴史的な調査を実施し、意義を説明した上で同意を得たかは明らかではない。

劣化、開発…消えゆく地下壕 那覇13カ所で埋め戻し、専門家は調査と管理訴え

 グスク研究所主宰の當眞嗣一氏は戦争遺跡の保存・活用について、県全体の議論も進まず自治体任せになっていると指摘する。県内の市町村によっては、国の一括交付金で戦争遺跡を文化財に指定したり、整備して活用したりする動きもある。一括交付金は、市町村が自主的に使い道を決められる性格ゆえに、戦争遺跡に対する自治体の考え方によって方向性や取り組みに温度差が生じているようにも見える。

 壕やガマに入り、沖縄戦を追体験することは「ガマの教育力」として注目され、多くの学校や修学旅行で取り入れられてきた。自治体の関係者によると、戦争がさらに遠い世代となり、太平洋戦争末期に沖縄で地上戦があったことさえ知らない子どもが増えているという。関係者は「『風化』という言葉さえ風化している」と話す。

 地域の戦争遺跡からは住民と軍との関わりや沖縄戦の経過と被害が見えてくる。地元にある戦争遺跡をどのように保存・活用するのか、地域で考え取り組む必要もある。

 今年は日本復帰50年を迎える。県の将来の方向性を描く年でもあり、県には戦争遺跡と向き合う姿勢が問われる。沖縄戦が忘れられる状況をつくらないため、体験者と将来の世代をつなぐ今の世代が果たす責任は重い。
 (中村万里子)


地下壕保存・活用 議論進まず 全国に8747カ所
 

 2017年度、国土交通省が各自治体を通じて実施した「特殊地下壕実態調査」によると、全国には8474カ所の地下壕があり、県内には196カ所が残る。このうち自治体が崩落や陥没などで「危険」と判断した壕は29カ所で、2009年度調査より2カ所増えた。

 この中で保存・活用の検討が進められているのは、首里城地下の第32軍司令部壕など一部にとどまり、多くで保存や活用の議論は進んでいない。

 一覧は同省のホームページで見ることができる。