石垣市長の尖閣視察 背景に漁船操業への脅威 野党は「政治パフォーマンス」の見方も


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尖閣諸島周辺海域での調査を終え下船後、取材に応じる中山義隆石垣市長=1月31日午後、石垣市の石垣港

 石垣市の中山義隆市長は「海域の実態調査」を目的に、初めて尖閣諸島を海上から視察した。行政機関による尖閣諸島の海域調査は2012年9月、当時の石原慎太郎都政で尖閣諸島の購入を検討していた東京都が実施して以来、約10年ぶりとみられる。

 中山市長によると、視察に使った船は市が東海大に依頼してチャーターし、尖閣諸島の沖合2キロ弱の地点まで近づいたという。海域には海上保安庁の船も数隻出ており、中山市長は「(海保が)しっかり守っていたので、特に恐怖感はなかった」などと述べた。

 中山市長は就任以来、尖閣諸島が石垣市の行政区であることを、国内外へアピールする動きを強めてきた。自民党の部会に出席し領海警備の徹底や、安定的な漁業活動ができるよう気象・海象観測施設や灯台、漁港の整備が必要だと訴えた経緯もある。

 背景には、漁船が航行中に中国公船の接近を受けるなど、周辺海域で漁民の操業が脅かされている実態もある。市の提案を受け、石垣市議会も20年、同諸島の字を変更し、地名を「登野城尖閣」とする議案を可決。政府の判断で不許可となっているものの、市は行政標識の設置を目指して上陸申請をしている。

 一方、中国政府が海警局に武器の使用を認める「海警法」を成立させて1年のタイミングと重なり、視察に危険性も伴った。2月27日投開票の市長選が近づく中で、「政治的パフォーマンス」(野党市議)と冷ややかに見る向きもある。

 尖閣諸島は東京都の購入検討、日本政府による国有化など政治的な動きによって、緊張関係が高まり、10年9月には尖閣諸島沖で中国漁船衝突事件も起きた。

 星野英一琉球大名誉教授は「『棚上げ』にされてきた尖閣問題は、首長などの政治的な思惑が働き(日中)政府の動きまで引き出された。(視察は)火種になりかねないことをしている」と指摘する。

 視察後、中山市長は水質や生態系など、環境的なデータの蓄積が目的だと強調したが、「海域の実態調査」に市長や市議の乗船が必要だったのか不可解な点は否めない。市議会野党は中国や台湾の反発を招くとして、中山氏に真意をただす構えも見せる。

 中山市長は2月1日以降に記者会見で視察の詳細を明らかにするとしており、調査の実態や経緯などを細やかに説明する責任が問われている。
 (池田哲平)