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ザル経済の「網目」を細かくするには?国内外の先進例、吸収を<沖縄経済の針路>3


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 今回は「ザルの網目」を細かくするにはどうすればよいかを考察します。最初に断っておくと、「万能薬」は存在しません。当事者としては、満点の施策でなくとも、「できそうなこと・意味のありそうなこと」と「そうでないこと」を見極め(着眼大局)、できることから始める(着手小局)しかありません。

 取り組むべき課題は地域によって異なります。一つのアプローチとして、前回挙げた沖縄県の実例に即して、具体的な取り組みを考えます。

 (1)県内で生産できないさまざまな財を県外から調達している(2)民間建築・公共事業が増加しても、大きな案件は本土ゼネコンが受注してしまう(3)観光客が増加しても、本土・海外資本のホテルに流れてしまう。

 まず(1)です。製造業の振興は、復帰以降50年にわたる課題です。いまだ妙案はありません。企業経営者にとって、「島しょ県のデメリット(電力、水、物流コスト、サプライチェーンなど)に目をつぶり、沖縄県に製造機能を置く」という経済合理性を超えた判断を下すことは今後も難しいでしょう。

 (従来型の)製造業の振興(誘致)という「圧倒的な比較劣位の分野」には見切りを付け、強みのある分野を高度化させる方向に一段と資源を振り向けてはどうでしょうか(この点は今後取り上げます)。例えば、秋田県の佐竹敬久知事は「『工場誘致』という言葉はもう死語であります」とコメントしています。一方、「アフターコロナの働き方改革」といったストーリーに乗せつつ、企業の「本社機能」誘致に注力することは引き続き有益だと思います。

 次に(2)と(3)です。規模や資本力の面で本土・海外企業に追いつくのは難しいとしても、やれること・やるべきことはあります。まず着手すべきは、「技術力」・「人材力」・「経営者力」の向上です。この点、本土・海外企業は、ライバルであると同時に、願ってもないお手本です。

 建設会社であれば、自腹を切ってでも、本土企業の進んだ技術・工法やマネジメントシステムを学び、自社に導入してはどうでしょう。人材育成についても、社員のレベルアップ(資格取得)支援、先進企業への派遣、JVの現場を通じたノウハウ吸収など改善と工夫の余地があります。県内企業の優遇策(公共工事の優先発注など)は必要だとしても、それに安住せず、競争力強化に向けて取り組まないと、いつまでも本土企業との差は埋まりません。

 ホテルについても、コロナ禍の時期にこそ、本土・海外資本のホテルに社員・幹部を派遣し、ノウハウを吸収させ、地元ホテルのレベルアップにつなげるのも一案です。ある経営者の方は、目標とするホテルに足しげく出向き、ハード・ソフトを隅から隅まで丹念にチェックするほか、総支配人に頼み込み、経営ノウハウ(ブランディング・PR戦略、運営・管理手法、人材育成など)を貪欲に盗もうとされていました。

 沖縄県は、地元出身者が地元企業の社長を務める「社長地元率」が9年連続で全国トップです。経営者自らが本土・海外企業の経営ノウハウを吸収し、地元企業を伸ばす余地は少なくないはずです。「稼ぐ力」を強化する手段の一つとして、こうした取り組み(スタッフや経営者のリスキリングなど)を行政が支援するのも有益です。

 沖縄県の「ザル経済」は、他県と異なり、苦難の歴史の延長線上にあります。脱却に向けた道のりは簡単ではありませんが、復帰50年の節目を迎える今こそ、改めて県全体として具体的な取り組みを始めるべきです。
 (桑原康二、元日銀那覇支店長)


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  沖縄が日本に復帰して今年で50年。県民所得が全国最下位水準で貧困問題を抱えるなど県経済の課題は多い。沖縄の経済を鋭い視点で見つめてきた元日銀那覇支店長の桑原康二氏に現状分析を基に提言をしてもらう。


 くわはら・こうじ 1965年広島県生まれ。シェークスピアと西洋美術史の研究者を志し、東京芸大を志望するが断念し、東京外大・英米科に入学。紆余(うよ)曲折を経て再度方向転換し、89年に日本銀行入行。那覇支店長などを務め、現在は会社役員。