<書評>『沖縄の湧水・井戸 見て歩き』 暮らし支えた「生命線」


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『沖縄の湧水・井戸 見て歩き』上里勝實著 琉球新報社・2200円

 人々の生活や営みに欠かせない水。大きな山や河川がない沖縄で、どのようにして人々は雨水以外の水資源を確保してきたのだろうか。

 その答えは湧き水にある。地表の琉球石灰岩にしみ込んだ水は泥岩との間から出てくる。幸いにも、このような湧水・井戸が県内の至る所に見られることから、住民の生活が守られてきたのである。大小、実に千カ所以上の湧き水があるという。

 住民の生命線ともいえるこれらの湧水・井戸を、膨大な時間と労力をかけて踏破した人が琉球大学工学部元教授の上里勝實氏である。著者は大学を定年退職する少し前から、かねて関心を持っていた湧き水と人々の生活を探るべく、休日を利用した「沖縄本島の湧水・井戸 見て歩き」を始めた。その結果をまとめたのが本書である。

 ページをめくっていくと、有名どころの金武大川(金武町並里)や日本名水百選に選ばれた垣花樋川(南城市玉城垣花)などの湧水から、今は使われない佐敷グスクの親井(南城市佐敷)まで、実に800以上の湧水・井戸を網羅している。上水道の普及により、現在はふたで覆われた井戸、格子で出入りが制限された湧水、草木に覆われて荒れ果てた井戸もある。つい最近まで住民の生活を支えた湧き水も時代とともにその役割は変化しているようだ。著者は「あとがき」で次のように述べている。

 「古来、人の命を維持し生活に欠かせない湧水・井戸、そしてウタキなど周辺の景観は、地域住民の共有資源として大切に保存し次世代へ継承すべきものと思っている」

 本の構成は、沖縄本島北部から始まり、中部、那覇市、南部と下りてくる。各ページは写真、簡潔な説明、略地図でわかりやすくまとめられている。

 実際に湧き水を「見て」周辺を「歩く」ことによって、利用する人々の人間的つながりに想いをはせることができる。本書は旅行者への紹介・案内書にもなるが、水の大切さと湧き水活用に関わる先人たちの知恵に気付かせてくれる一冊でもある。

 (宮城隼夫・琉球大名誉教授)


 うえざと・かつみ 1940年竹富町波照間島生まれ、琉球大名誉教授。専門は電気機器、エネルギー変換工学で、国内外の専門誌に論文を多数発表している。

 


上里勝實著
A5判 448頁

¥2,200(税込)