メインキャストの若手俳優たちの正体は?<映画「ミラクルシティコザ」への道>4


この記事を書いた人 Avatar photo 玉城江梨子
(左から)映画「ミラクルシティコザ」の平一紘監督とメインキャストを務めた渡久地雅斗、津波竜斗、山内和将=沖縄市のデイゴホテル

 2022年1月に沖縄県内で先行公開された映画「ミラクルシティコザ」(平一紘監督)の連載第4回は、メインキャストを務めた、県内を拠点に活動する若手俳優の津波竜斗、渡久地雅斗、山内和将が作品にかける思いや撮影秘話を語った。案内役は平監督。

映像経験ない中で映画出演決定

平一紘 3人は演劇グループ「演劇戦隊ジャスプレッソ」のメンバーですが、そもそも「演劇戦隊ジャスプレッソ」とは何でしょうか

渡久地雅斗 沖縄県の中部にある読谷村を拠点に活動している劇団です。団員は5人で、コメディ作品ばっかり演じています。

平 3人はどうやって出会ったんですか?

渡久地 琉球大学でミュージカルをする授業があって、そこでまず和将と出会いました。

津波竜斗 ドラマとか映画に出たくて、いろいろなオーディションを受けたけど落ちていた。だから、とにかくお芝居を始めたかった。その時期にたまたま、結成した劇団があると聞き、入団した。

 

 「未完成予告編大賞」に応募する映像を撮影するときに、(渡久地)雅斗に「翔太役に良い人が誰かいないか」と相談した。そのときに、一番顔が面白かった(津波)竜斗を紹介してもらった。竜斗は現代編の翔太というポンコツな役だけど、「自分に似てます、この役!」と引き受けてくれた。「未完成予告編大賞」の撮影の際は、どうだった?

渡久地 「映画の予告編だけ撮るんだけど、出てくれないか」と言われて、最初意味が分からなかった。でも映像作品にも出たかったので、やりたいですと食いついた。それで、「未完成予告編大賞」のときは、桐谷健太さんがやる役を自分が演じることになった。撮影のときは、「タイムスリップして上から落ちてきて起き上がる」みたいに場面の説明をされて、よく分からない部分もあったけど、ただただ一生懸命やりました。

平 3人ともほとんど、映像作品に出ていない状態で 「未完成予告編大賞」の撮影に参加し、これがグランプリをとった。本編の撮影が決まり、桐谷さんという大スターが出ると決まったとき、どうだった?プレッシャーとかあった?

津波 すごいブルーになった。「あっ、降板させられるな」と。こんなすごい方がでるのであれば、すごい方で脇も固めて、自分たちは出れてエキストラくらいじゃないかなと。

渡久地 俺は出れないと思っていたから。グランプリとりました、制作決定しましたとなって、「すごい一紘さん、よくて一言せりふもらえたらいいな」と思っていた。でも、「一紘さんおめでとうございます」と言ったら、「出るからね、おまえも」と言われて、「出れるんだ!」と有頂天になった。

山内和将 自分はそもそもなんか、予告編にでたときに、自分の顔が出ていないから(ヒゲをつけて、サングラスもかけているからね 平)。もともと出ていないくらいな気分だったので「誰かに変わるんでしょうね、ありがとうございました」と思った。

平 本当にネガティブな子たちでね。この意識を変えたくて。不幸中の幸い、コロナ禍が襲ってきて、制作が1年半から2年くらい撮影が延期になった。忙しい桐谷さんが何回もスケジュールを調整してくれて、それだけ映画のことを考えてくれていることがうれしかった。だから、他のメインキャストの意識を変えたいというのもあって、しつこく「これで俺たち人生かえないといけないよ」と3人に何度も声を掛けた。みんなの演技が好きでお願いしたので、自信を持ってほしかった。撮影に入るまでにみんなはどんなことをしてた?

津波 翔太という役は、劇団に入る前、オーディションを受け始めるまえの僕にそっくり。「俳優になるから大学やめる」と、大学を辞めたけど、そこから1年プータローをしていた。(役作りに際しては)当時の友だちに、「何してたっけあのとき」「俺の言動どうだった」とか聞いて回っていた。

渡久地 ハルの過去のバンド「インパクト」のメンバー・比嘉を演じた。当時のコザの若者の姿というか、「当時こういう人たちがいた」というどんぴしゃの役。めちゃくちゃ難しくて。家がないなど、大変な環境で育っている若者で、米軍とのからみもあり、複雑な役柄だった。そもそも50年前のことも分からないなと思って、文献を読みあさり、知り合いにコザでずっとバンドをやっている方かたもいたので話を聞きにいった。人物設定についてズーム会議をするなど、自分のなかで納得できるまでやった。

山内 インパクトメンバーの辺土名役を演じた。辺土名は、唯一彼女が一緒にいて、それも外国人。英語のせりふもあったので、英語に触れておこうと、もともとJ-POPかオペラ、ミュージカルしか聞かないけど、洋楽を良く聞くようにしていた。でも、台本の稿が変わっていくごとに、辺土名のせりふが消えていく。最後は、ほぼしゃべらない役になっていた。

誕生日に長時間撮影 終了後に泣

1970年代のバンドメンバーを演じる(左から)渡久地雅斗、山内和将、玉代勢圭司(PROJECT9提供)

平 印象的な役になったなと思います(笑)本編の撮影では何が印象に残った?

津波 朝4時から午後9時まで、翔太の一日をタイムラプス(低速度撮影)で撮影した。何をやっていてもいいと言われたが、カメラは意識する。寝ても、夢の中でタイムラプス中だった。その日が誕生日でもあったので、すごい印象に残っている。

平 タイムラプスは、1分に1枚。映画は24コマで1秒だから、24分で1秒埋まる計算になる。撮影終わりが近づいてきたとき、竜斗の誕生日でもあったからスタッフがみんな集まってきた。頭を抱えるポーズで撮影が始まったから、さいごも同じポーズにしようとして「30分くらい動かないで」と言った。すると、(スタッフが集まってきた)空気を察した竜斗が、感動し始めた。撮影が終わり、みんなで竜斗に「頑張った」と声を掛けたら、パンツ一丁の姿で竜斗がめちゃめちゃ泣いていた。

津波 「基本、カメラの後ろに俺たちはいるから」と監督が言っていたけど、2、3時間一人で放置される時間もあって、それも思い出してつらかった。いろんな感情がこみ上げた。

平 このシーン、実はカット候補でした。

津波 その話を聞いたときぞっとした。

渡久地 ヤクザが乗り込んでくる緊迫したシーンの撮影で、僕は一瞬寝てしまいました。

平 本当に!?なぜ

渡久地 急に室温が暖かくなって、やばいとおもった「一世一代のこの現場でやめてくれ!寝るなー!」と思ったけど、気付いたら次のカットをやっていた。桐谷さんにも気付かれていて「いま寝とったやろ」と言われた。

平 和将は、桐谷さんとあるシーンで二人きりだった。あのシーンはどうでしたか。

山内 ぶつかり合いでしたね。あのシーンがいちばん、自分の見せ所というか、自分が一番力を出さないといけない部分で、緊張しました。

平 コロナ禍の中での撮影ということもあり、撮影時間の制限があった。体力が落ちたら免疫力下がって、コロナに掛かりやすくなるからとかいろいろあって、一つの現場が終わって次の現場での撮影開始まで12時間空けないといけなかった。今回初めての劇場映画撮影だったけど、そういうのがプラスに働いたかなと思う。(渡久地は)寝たけどね。でもきつかったと思う。肉体的というより、精神的に。

平 もう一人のインパクトメンバー平良を演じた玉代勢圭司さんの印象はどうだった?俺は「闘牛戦士ワイドー」というドラマで、知り合って、すごい貫禄があっていい俳優だと思っていた。

渡久地 めちゃめちゃいい人

山内 どちゃくそいいひと

津波 男がほれる男。色気がすごい。

平 非常に人情的で涙もろ“すぎる”人という印象。あるシーンでインパクトメンバーが仲違いをするんだけど、圭司さんは気持ちが入りすぎて、涙が止まらず、引きの画だったけど、鼻をすすっている音がとても入っていた。

平 撮影を終えてコザの印象はどう?

津波 撮影が終わってからも、ほぼ毎日、何かしら沖縄市にいる。

渡久地 それまでは怖い町だったが、いまはお家みたいな感じ。何かをするときの選択肢によく入るようになった。

平 32年間コザにいて思うけど、ちょっとずつコザも変わってきている。映画の中でも、町は主役の一つ。でも、この映画を通して見る町も変わっていく。変わっていくけど、変わらないものは何なのかということを見つけてほしい。

紫メンバーが楽器指導

(写真左から)山内和将、平一紘監督、津波竜斗、渡久地雅斗

平 本作は音楽映画なので、楽器の演奏シーンがある。雅斗と和将はどうやって練習したの?

渡久地 ドラムなので、最初はスティックでクッションをたたいていたが、電子ドラムを買った。ドラム教室に通い、ユーチューブの動画で手の位置を覚えて、スタジオで本物のドラムをスティックが折れるまでたたいた。作品のモデルになったロックバンド「紫」のドラマー・宮永英一(チビ)さんの演奏も見せてもらった。本物は音圧も違うし滑らかで、まねはできないと思った。

平 セックスマシンガンズのレオンさんにも教えてもらっていた。

渡久地 肘はあまり上げないんだなとか、レオンさんを見て、分かる範囲で分析して演じたけど、チビさんは見ても分からなかった。チビさんからは、芯でたたく感じとか、派手さを出すようなところを参考にさせてもらった。

平 和将は左利き用のベースに挑戦した。

山内 もともと触っていないので関係ないだろうと思って始めたが、1回挫折した。でも、やりきった。

平 楽器シーンのために、劇伴(映画の中で使われる伴奏音楽)担当のクリスさんがみんなにずっと付いてくれていた。素人がいきなり楽器を始めて、スーパーバンドの役をやるとなったので最初は、遠くから撮影してなんとか演奏しているふりに見えるようにしようと考えていた。クリスさんが「思っていたよりできているから、もっと改良していこう」と言ってくれて、カット割りもどんどん変わっていった。ベースの寄りから入っていったりとか、全部のドラムがはいるようなカットになっていたりとか。すごい頑張っていたなと思う。本作をきっかけに楽器を続けてほしいな。

平 今後の意気込みを。

津波 東京の映像に出たくて役者を始めたので、これを機にいい形で沖縄を出られるようにしたい。

渡久地 海とか空とかじゃなく、音楽とか独特の町並みのコザを好きになり、デイープな沖縄に遊びに来て。

山内 同作には、沖縄に関係する人が多く出ている。沖縄の歴史と一緒に、沖縄の俳優も知ってもらい、沖縄に舞台を見に来てくれるようになったら、すごくいいなと思う。

平 一緒にやってきたみんなと、「ミラクルシティコザ」を撮れたことが誇らしいし、楽しかったです。