【識者談話】ロシアのウクライナ侵攻、沖縄への影響は?(金成浩・琉大教授)


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金成浩氏(琉球大教授)

 ウクライナでのロシアの軍事行動の背景にはNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大と、ミサイル防衛網の整備がある。東アジアでも日米がミサイル防衛網整備を進めており、沖縄にも関連してくる。

 米国は東西冷戦崩壊後、旧共産圏のルーマニアやポーランドなどでもミサイル防衛網を配備する。ロシアは「攻撃用ミサイルに転用できる」と反発してきた。ウクライナがNATOに加盟しミサイルが配備されれば、ロシアの首都・モスクワに短時間でミサイルが到達する。ロシアは、ウクライナのNATO加盟を安全保障上の脅威と認識している。

 NATO側からみると防衛力の強化だが、ロシアがそれを脅威に感じて軍事行動に出る構図だ。2国間の軍事力強化と疑心暗鬼が戦争に至る「トゥキディデスの罠(わな)」や「安全保障のジレンマ」の典型例といえる。米国などは経済制裁にかじを切っているが、解決にはロシアとの対話を進めるしかない。

 ウクライナを巡る国際関係と同じ構造は東アジアにもある。韓国でも議論されている「東アジア分断構造論」が参考になる。日米韓台と中朝の間の大きな分断に加え、韓国と北朝鮮、中国と台湾、日本と韓国、日本と沖縄などの間に小さな分断があり、大分断線の亀裂が小分断線に影響を及ぼすという分析だ。

 米中対立という大分断線の亀裂が激化すると、沖縄での軍事強化が進む。県民の反発が高まり、軍事化を進める日本政府との分断が深まる。さらに、南西諸島での日米の軍事力強化は、中国の脅威認識を高める可能性もある。

 地政学を根拠にする大国間政治は、そのしわ寄せが周辺の弱い地域に出てくる。東京では地政学的な視点でものごとを見がちだが、沖縄からは軍事力強化反対の声を上げていく必要があろう。
 (国際関係学)