エコデンレースで那覇工業全国V ワイパーモーター部門 重い空気、表彰式で一変


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 那覇工業高校は、このほど大阪府で開かれた「’21エコデンレース」(全国自動車教育研究会主催)のワイパーモーター部門に出場し、優勝した。那覇工は2018年まで同部門で10連覇を達成しており、同部門では11回目の頂点となった。

エコデンレースのワイパーモーター部門で優勝した那覇工自動車工作部の(左から)金城昇之介さん、樋口紳之助さん、屋良元喜さん、砂川藍翔さん、宮里昴尚さん(手前)=浦添市勢理客の同校

 エコデンレースは自作した一人乗りの電気自動車で、走行した距離を競う大会。ワイパーモーター部門は、水滴などを拭い取るワイパーのモーターを車の動力源とした電気自動車で走行距離を競う。自動車工作部の宮里昴尚(ごしょう)さん、砂川藍翔(あいと)さん、金城昇之介さん、屋良元喜さん、樋口紳之助さんの5人で参加した。

 メンバーは5月から本格的に車の製作に取りかかった。運転手の宮城さんの体格に合わせて組み立てる必要があり、骨組みを仕上げるまでに5カ月を要した。空気抵抗を最小限に抑えるために設計され、何度も調整した車は車高が低く、運転手はコックピットにあおむけになるような状態で乗り込む。車内にはバッテリーの電流や電圧が表示されるパネルを取り付けており、走行中の車の状態を把握できる仕組みだ。

 車の外装を製作し終えたのが12月の初旬。大阪の大会会場に車を輸送する前日まで調整を続けた。一方で、試運転はできなかったため、会場のコースにうまく適応できるかなどの不安は残ったという。

 大会当日、メンバーらは初めて見るコースにあぜんとした。傾斜のある上り坂からのスタートだったからだ。ワイパーモーターは車に使用されるモーターと違い、動力が弱いため、「坂を登り切らなければスタートできない。記録なしに終わるのではないかと思った」(宮里さん)と振り返った。

 その不安は的中した。レース開始と同時に周りの車が出走していく中、那覇工だけは動くことができなかった。サポート役の金城さんはコックピットの宮城さんに「どうして動かないんだ。早く出発しろ」と焦りを隠さなかった。周りのメンバーも困惑する中、約10秒後に車は動き出した。出発すると滑らかな走行を続けたのは、予想外だったという。バッテリーの容量なども考慮しつつ、アクセルを制限しながら走らせた。一方で「一般的なモーターを扱う部門も同時に走行するため、自分たちがどの位置にいるのかは分からなかった」と砂川さんは語る。

 順調に走行を続け、12周目を迎えると、バッテリーの残量も残りわずかとなった。金城さんは「もう好きなように走れ」と指示を送った。いつ止まってもおかしくない中、16周目のゴール手前、スタート時にうまく進めなかった坂道で車は止まった。結果は15周だった。

 出だしでつまずいたことが原因でメンバーらの間には重い空気が漂っていた。「俺ら頑張ったよ」「胸を張ろう」と皆でたたえ合ったが、悔しさが残った。表彰式の間もメンバーらは暗い表情だったが、ワイパーモーター部門の発表で「優勝は那覇工業高校」とコールされた。樋口さんは「最後まであっけにとられていた。今でも信じられない」と語る。結果を見ると、実際には2位に12周の大差をつけて圧倒していた。大会目前のぎりぎりまで調整を続けた結果だった。

 大会は本大会が最後の開催となった。「先輩方が作り上げてきた伝統を僕らも継承し、有終の美で終えることができた」と屋良さんは語る。メンバー全員が3月に高校を卒業し、自動車整備士などの技術を生かすために、進学、就職する。指導した玉城厚司教諭は「車製作を通して協力することの意義を学べたと思う。それぞれの場所で経験を生かしてほしい」と期待する。メンバーらは大会の思い出を胸に、互いの夢をかなえようと誓い合った。
 (名嘉一心)