<書評>『沖縄が日本を倒す日』 「民意の再構築」の可能性


社会
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『沖縄が日本を倒す日』渡瀬夏彦著 かもがわ出版・1980円

 この本は「コザ暴動」のように車両に火を付けて、直接行動で「倒す」ような話ではない。そういう力が沖縄に期待できるのではないか、という意味だろう。対象に深く入り込む「ニュージャーナリズム」の手法で書かれた傑作だ。参与観察という言葉にぴったりの方法(いやそれを上回る行動)で書かれたドキュメンタリーだ。沖縄政治の当事者に迫って知事選挙に引っ張り出すために国会議員に何度も「懇願」までしている。現在の玉城デニー知事のことだ。「渡瀬さん、あんまり外堀を埋めないでよ」とデニーさんから言われたくらいだ。

 亡くなった翁長知事の次の候補を誰にするのか? 著者は気が気ではなかった。ズバリ言えば「勝てない候補の選考会議」としか思えぬような「オール沖縄」側の選考方法、選考過程ののんきさに、危機感は募る一方だったのだ。

 その後の知事選挙(2018年9月30日)では8万票の差をつけて勝利した。それから3年半がたとうとしている。1月の名護市長選、南城市長選ではオール沖縄側が連続して敗北。選挙イヤーの幕開けを黒星スタートした。

 昨年9月、金秀グループが「オール沖縄」を離脱したのが響いている。一つのエピソードを引こう。「ふとした折に、呉屋氏はこう言って苦笑するのだった。『革新政党の皆さんの保守性には、困ったもんですなぁ……』」

 著者は、オール沖縄側に対しては「反省のない集団には、同じ失敗が起こり得る」と警鐘を鳴らしている。この本のサブタイトルは、「民意の再構築」が始まった、である。19年2月の県民投票では、米軍基地建設のための辺野古反対票が72%に達した。これが「民意」と見て間違いない。ではなぜオール沖縄は負けたのか?… 再構築の可能性はあるのか? この本を手に考えてみたい。

 (緒方修・東アジア共同体研究所 琉球・沖縄センター長)


 わたせ・なつひこ 1959年埼玉県生まれ、ノンフィクションライター。著書に「銀の夢―オグリキャップに賭けた人々」など。2006年から沖縄に移り住み人物ドキュメントを中心に幅広く取材活動を行う。