<書評>『おっさんの掟』 残念すぎる現実


社会
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『おっさんの掟』谷口真由美著 小学館・946円

 組織の大変革に奔走しながら、道半ばで「はしごを外された」顛末(てんまつ)を描いた暴露本か、と思えば、さにあらず。筆者は謙虚に冷静に事態を振り返り、改革を拒む日本の「おっさん社会」の弊害を浮き彫りにする。社会学が指摘する「タテ社会」で「年功序列」、「過剰な同調圧力」が実例として見えてくる本だ。

 始まりは日本ラグビーフットボール協会が生き残りを賭けたプロ化・新リーグ構想だった。筆者は周囲に推され新リーグ法人準備室長に就任する。

 父親の関係で花園ラグビー場で育った筆者のラグビーへの思いは熱い。学者としてラグビー憲章と日本国憲法に共通する理念を語ることもできる。ラグビーが地域から支援され、プロとして成り立つ基盤となる愛と理念を持っていた。

 準備室長に専念するために筆者は大学教員や本紙コラム「日曜の風」、TVのレギュラーもほぼ辞めた。全てを賭けているだけに私は不安がよぎった。「ラグビーという男社会を女性リーダーが率いていけるのか」と。不安が的中した後、「協会の人たちは『僕らが全力で谷口さんを守る』って言ったんじゃないの」と問うと、答えは「その人たちが真っ先にはしご外したわー」であった。

 最中には森喜朗東京五輪パラ五輪組織委会長の「わきまえない女」発言があり、筆者は森氏批判の先鋒(せんぽう)と見なされる。ラグビー界を追われる引き金になったかもしれない。

 ただ、一連の出来事から筆者が問うのは、名著「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」が指摘した、合理的思考よりも優先される年功序列主義、上長への行き過ぎた配慮、曖昧な命令による組織の迷走―がいまだ生き続ける残念すぎる現実だ。

 変化を拒み責任を取らない「おっさんたち」が日本の「失われた30年」をつくったのではないか。自覚なく若者や女性たちの足を引っ張り、社会を劣化させる存在になってはいないだろうか。「おっさん」の定義を自身や自身の組織に当てはめて読んでみることをお薦めする。

 (島洋子・琉球新報広告事業局次長)


 たにぐち・まゆみ 1975年大阪府生まれ、法学者、大阪芸術大客員准教授。著書に「日本国憲法 大阪おばちゃん語訳」「憲法ってどこにあるの」など。