子どもや女性への暴力 どう防ぐ?医師や教諭ら「話し合う性教育を」 オンライン市民講座


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それぞれの現場から実態を報告した(左から)三浦耕子氏、後野哲彦氏、上間陽子氏、前田比呂也氏(ユーチューブより)

 沖縄の女性と暴力の問題をテーマにした市民公開講座(沖縄産科婦人科学会、おきなわ女性財団など共催)が2月27日、オンラインで開かれた。ユーチューブでライブ配信され、約200人が視聴した。医師や児童相談所所長など4人が各現場の現状を報告し、家庭や学校現場、周囲の人に求められる役割などについて議論した。登壇した三浦耕子氏(県立中部病院婦人科、県性暴力被害者ワンストップ支援センター副医療統括)、後野哲彦氏(県中央児童相談所所長)、上間陽子氏(琉球大教育学研究科教授)、前田比呂也氏(美術家、浦添市立神森中学校教諭)の講座の内容と、琉球大学病院の銘苅桂子教授を進行役に加えたディスカッションの内容を詳報する。(嶋岡すみれ)


三浦耕子氏(県立中部病院婦人科)
 

 県立中部病院のまとめでは、性暴力被害の年齢別受診者で最も多いのは15~19歳の95人。次いで10~14歳が51人、20~24歳が40人と続く。20代後半以降の受診者でも、それ以前に被害体験がある人もいる。加害者は知っている人が約半数。

 被害者は「具体的に何をされたか」ということよりも一方的に扱い方を決められたことに傷つき、苦しむ。恥と自責感が大きい。

 被害者に問われる「なぜ」は責める言葉だ。「どう思ったの」「どう感じたの」と聞くことが大切だ。被害者は危機に直面すると、動けなくなる。自分ではどうすることもできないことを理解してほしい。

 逆に加害者はとても理性的に頭を使っている。性暴力は加害者の問題だ。私たちは被害者の味方になりながら、加害者に向き合う必要がある。
 

後野哲彦氏(県中央児童相談所所長)
 

 近年心理的虐待の件数が増えているが、身体的虐待やネグレクト、性的虐待なども減少していない。特に性的虐待は表面化しにくい。

 また小学生以下の子どもが強制わいせつや盗撮などの性被害を受けている現状もある。子どもを性的トラブルの被害者にも加害者にもしないためにも、早めの性教育が大切だ。一方的に教えるのではなく話し合う形で、家族で性に関して話してほしい。

 もし10代で妊娠すれば、学業や生活、夢の実現などが中断される可能性があることを伝えておく必要もある。また産むことを決めた時は、周りはそれらの支援策をつくらなければいけない。

 性被害や望まない妊娠は子どもの生活や未来に大きな影響を与える。子どもやあなた自身を守る行動をしてほしい。
 

上間陽子氏(琉球大教授)

 沖縄の若い女性の調査をした。暴力の件数が多く、ほとんどは、どことも関わらず暴力を乗り越えたり、なかったことにしたりして生きている。

 繰り返し暴力に遭った人は「身体の不快さ」が強く表れる。喫煙や摂食障害など何かにはまることでごまかそうとする。その反面には「ケアの不在」という問題もある。

 暴力の体験は半分くらいしか語られない。話して問題が解決できるとは思っておらず、学校・福祉・医療は念頭にない。ただ、出産は1人ではできない。プロが関わる。病院の先生や助産師に優しくされたという子もいた。ケア体験が大切だ。 昨年10月にシェルター「おにわ」をオープンした。ベースはママのケアだ。ママは大事にされると赤ちゃんを大事にしようと思う。ケアする人をケアするシステムや場所をつくる必要がある。
 

前田比呂也氏(美術家、教諭)

 たくさんの人が「面倒くさくないように、取りあえず合わせておこう」と思って学校生活を送ってきたかもしれない。この学校の役割の誤解をどのように解いていこうか、いつも考えている。

 教職員と生徒に(1)自分のことを好きになる(2)つながっていることに気付く(3)居場所は自分でつくる―が中学校の学びだと伝えている。

 自分の中にある能力に気付く学習指導と、自分の中にある優しさに気付く生徒指導が合わさったところに初めて自己実現というゴールがある。

 負の連鎖を断ち切るのはたった一つの出会いだと思う。思春期にはそのほとんどが人で、多くは学校の先生だ。「あなたは大切だよ」「ここにいていいよ」と伝えるのが教師の仕事だと思う。

 一緒に負の連鎖を断ち切ろう。


ディスカッション 「一緒に考える」存在に
 

進行役・銘苅桂子氏

 銘苅氏 性虐待は目に触れない。そばにいる人たちはどんな役割が求められているか。

 後野氏 虐待やDVは女性や子どもの人権を侵害する犯罪行為だ。意見を表明できなくなるという環境がダメージを与える。逆に意見が表明できる、意見を聞いてもらえる存在の有無で予後が変わる。話せる人、傾聴してくれる人の存在は大事だ。一緒に考えてくれる人がいれば大きく変わるチャンスがある。

 銘苅氏 若年妊娠の前段階として、教育や生きづらさをどうしたらいいのか。

 前田氏 学齢期の子どもたちの周りで起こることは、学校が中心になって解決していくべきだ。学校は力がある。たくさんの人がいて、ノウハウがある。学校が本気になれば、いろんなことを解決できると思う。

 上間氏 居場所が必要だから「子ども食堂をつくろう」という話ではない。自分の現場で自分を鍛えていくことが大事。

 こども家庭庁ができる。家の中でものすごい問題が起きているにもかかわらず、子どもを家庭に埋め戻すという話になっている。そういう流れの中で、きちんとした政治を要求するのも大人ができることだ。

 銘苅氏 最後に追加で話したいことは。

 三浦氏 妊娠してくる子たちを見ていると、正直「やることがない」という子が多い。文化がなく、それを与える場がない。経済的に豊かな子たちがしているサッカーやピアノといった文化が確実になく、経済格差がもろに現れている。文化が広がれば、逃げ場にもなるのではないか。