<書評>『沖縄文学史の外延』 刺激的な提言 次代へバトン


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『沖縄文学史の外延』仲程昌徳著 ボーダーインク・2200円

 本書は著者仲程昌徳の沖縄文学への愛情や研究に対する情熱が迸った作品である。近年、著者は連続して沖縄文学への研究の成果を出版し続けている。琉球大学を定年退職した2009年以降に出版した著書だけでも本書を含めて16冊になる。恐るべき冊数だ。その一つ一つが未踏の分野を開拓した労作で、多くの研究の蓄積がなされていたがゆえの出版であろう。

 今回の『沖縄文学史の外延』も興味深い。III部で構成され、I部が「沖縄文学史の外延」、II部が「報告・講演・講義録」、III部が「補遺篇」となっている。I部は「与謝野晶子と沖縄の新派歌人たち」「佐藤惣之助と沖縄の詩人たち」「広津和郎『さまよへる琉球人』をめぐって」「矢田弥八の南洋文学『群島』試論」「火野葦平の絶筆『悲恋瓦屋節』考」「上野英信の流儀」の七つの論文で構成されている。多くの人々にとって刺激的な提言になるはずだ。

 著者は「あとがき」で次のように述べる。「沖縄の近代文学は沖縄を出て行った者たちからはじまり、沖縄を離れた場で花開いたように見える。(中略)そしてまた沖縄の文学を膨らみのあるものにしたのに、沖縄出身でない作家たちが書いた沖縄に取材した作品があった。沖縄文学史の中で、触れられてこなかったということではないが、際立つほどではなかった事例を個別に取り上げて紹介して集めて編んだのが本書である」と。

 それゆえに、本書に紹介された『明星』や『詩之家』などに出入りしていた沖縄の文学者たちの交流や「さまよへる琉球人」のモデルへの言及は興味深い。圧巻は『眉屋私記』を書いた上野英信の炭鉱作家から『眉屋私記』執筆に至るまでの軌跡だ。

 III部には「明治・大正期の『沖縄の投稿者たち』一覧表」が収載されている。本土の各雑誌への投稿者たちの氏名がずらっと並んだ貴重な資料だ。

 著者の仲程昌徳は大学教授としての在職中から沖縄文学研究の先頭に立ち若い研究者を牽引(けんいん)してきた。バトンは確実に渡され続けている。本書もその一つになるはずだ。

 (大城貞俊・作家)


 なかほど・まさのり 1943年テニアン島生まれ。元琉球大教授。著書に「山之口貘 詩とその軌跡」「沖縄文学の一〇〇年」「南洋群島の沖縄人たち」など。