コロナ情報暗記し毎朝発表 本部町の我部さん「認知症予防にも」と笑顔


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新型コロナウイルスの各地の感染者数を暗記して利用者に知らせている我部政幸さん=8日、名護市為又のロービジョンライフ名護

 【名護】沖縄県名護市の就労継続支援B型事業所「ロービジョンライフ名護」で、利用者の我部政幸さん(57)=本部町=が、報道番組で発表される県内各地域の新型コロナウイルスの感染状況などを暗記し、毎朝の朝礼で報告している。厚生労働省指定難病の「網膜色素変性症」のため視野が狭く、文字が斜めに見えることもある障がいがあるが、我部さんは「感染予防の注意喚起だけでなく、認知症予防にもなる」と笑顔を見せる。

 我部さんは本部町健堅出身。専門学校卒業後、土建業に進むことを考えたが、目の病気のため夜は車の運転ができず、漁師の父を追って定置網漁を始めた。

 「政幸丸」と自分の名前の漁船も所有し、瀬底島の東側や崎本部などで定置網にかかるカーエーなどをとっていた。

 我部さんの当時の日課は毎日天気予報のニュースを見ること。「海に出るから天候や潮の流れなどを頭に入れておくのが当たり前だった」と振り返る。

 新暦と旧暦を頭に入れ、魚の産卵時期や網を陸に揚げて洗う時期、網を引き揚げるタイミングなどを計算していたという我部さんは「テレビのデータ放送で数字を追っている。斜めに見えてしまうこともあるが、かえって特徴的で覚えやすい」と笑う。

 目の症状が悪化したため50歳で漁師を引退し、数年後にロービジョンライフ名護に通い始めた。我部さんの日課は毎朝約1時間のウオーキング。「100キロあった体重が80キロまで落ちた」と健康面でも充実した様子を見せる。

 8日、ロービジョンライフ名護では朝の散歩帰りの利用者十数人が机を並べ、作業前の朝礼に臨んだ。職員から促されると、我部さんは「那覇は62人、うるま市は38人」などとメモも持たずに発表する。県内11市、5保健所管内の前日の新規陽性者数を正確に報告した。他の利用者から「すごい」と感嘆の声が漏れるとともに、拍手が送られた。

 視覚障がい者の就労支援などのために2017年にロービジョンライフ名護を設立した新里優美子さん(62)は「何カ月も前から『コロナ担当』として感染状況を報告してもらっている。我部さんのおかげで感染予防への意識が高まり、施設からは感染者が1人も出ていない」とねぎらった。

 我部さんは「コロナが収束するまで続けようかな」と話した。
 (松堂秀樹)