戦争の教訓生かせ ロシア「悪魔視」に疑問<乗松聡子の眼>


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 3月13日付のロシアの通信社「スプートニク」によると、ロシアのウクライナ「特殊軍事作戦」開始以降、260万人以上の民間人がロシア連邦への退避を申請しているという。ロシア非常事態省が330トン超の人道支援物資をドンバスやキエフに届けたという報道もあった。

 西側の報道しか見ていない人たちは、これらの情報を引用しただけで「ロシアのプロパガンダだ」と自動的に断定するかもしれない。しかし私は逆に、西側におけるロシア悪魔視一辺倒の報道を見るにつけ、我々は大日本帝国の戦争から何を学んだのか、と思ってしまう。

 あらゆる「攻撃」がロシア軍によるものとされる一点を取ってもおかしい。先日見かけたTV報道では、ある被害者が加害者を「they」(あの人たちが)と言っているだけなのに、日本語字幕では「ロシア軍が」となっていた。

 故加藤周一氏は「戦争では政府は必ずうそをつく。外国語を学ぶ目的は、政府のうそを見破るためだ」と言っていた。西側の我々が与えられる情報のほとんどが米国やウクライナ政府の公式発表、つまり西側の「大本営発表」なのである。これらが常に正しく、ロシア側の情報が常にうそであるなどと考える根拠を私は持たない。

 EUや、YouTubeなどIT大手各社はこの戦争が始まって以来、次々とロシアのメディアを「フェイク」であると検閲し始めた。ロシア発の報道機関「RTアメリカ」は閉鎖に追い込まれ、米国の帝国主義に批判的なジャーナリストが次々と発信の場を奪われた。その中には沖縄の米軍基地集中を取り上げたアビー・マーティン氏もいる。

 「国営放送」がうそだというのなら、日本のNHK、英国のBBCなどを完全に信用できるのだろうか。米国の「テロとの戦争」のうそに各国の主要メディアがいかに加担したかを思い起こしたい。検証の必要性を感じる動画も散見する。

 1990年「冷戦」終結時、米国をはじめ西側諸国は、ロシアにNATOが東方拡大しないと約束した。2013年沖縄に来たオリバー・ストーン監督とピーター・カズニック教授の「語られない米国史」改訂版(19年)によると、米国はその舌の根も乾かぬうちにNATO拡大を議論し始めた。現在の加盟国は当時の倍に及びロシアに肉迫する。2002年に米国はABM(対弾道ミサイル)条約から脱退し、ロシア近隣国へのミサイル防衛システム配備を可能にした。

 ロシアにとって冷戦後の30年は米国による裏切りの歴史だった。米国は、全米民主主義基金(NED)という組織を使ってウクライナ世論を西側に近づけるよう企て、14年にはネオナチ勢力を使って民主的に選ばれた政権を転覆させた。それ以来ウクライナのロシア系弾圧は強まり、内戦で数々の人権侵害や戦争犯罪が起こった。米国がロシアを崩すために仕掛けたこの戦争は今始まったのではなく、過去8年ずっと続いていたのである。

 ストーン監督の「ウクライナ・オン・ファイア」を参考にしてほしい。「ウクライナに連帯」を単純に正義と思っている人たちは、ウクライナの「誰」に連帯するのか、考えたことはあるだろうか。

 50カ国以上の法律家が参加する「国際民主法律家協会(IADL)」の声明では、ロシア軍の行動を「違法な侵略である」と非難すると同時に、NATOを「国連憲章に違反する違法な組織」とし、この侵攻を招いた西側軍事同盟の責任を厳しく問うている。この戦争を止めるためにも、西側だけに偏らない情報収集・発信をすべきと感じる。

 (「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディター)