3月29日、トルコ・イスタンブールでロシアとウクライナの停戦交渉が行われた。
<ロシア側が信頼醸成措置として、首都キエフ周辺などの軍事作戦を大幅に縮小すると表明。ウクライナ側はクリミア半島の主権を巡る問題を今後の協議で解決するとの考えを示し、双方が一定の譲歩を示した。/交渉は当初、2日間の日程だったが、29日のみでいったん終了した。今後、外相や首脳のレベルに交渉が移行する可能性が出てきた。/ウクライナのゼレンスキー政権はNATO非加盟については条件付きで容認する姿勢を表明。ただ、クリミア半島の主権を巡る要求では一歩も譲らない方針を表明していた>(3月29日、本紙電子版)。
ウクライナへの軍事侵攻が開始されて以降、クレムリン(ロシア大統領府)は、テレビ「第一チャンネル」(政府系)の「グレート・ゲーム」(ロシア語でボリシャヤ・イグラー)という番組で外国にメッセージを送っている。この番組はプーチン大統領系の政治評論家、政府高官、軍高官などが出演して討論する番組だ。30日夜に放映された「グレート・ゲーム」では、過去1カ月、ロシアがウクライナに提案を書面で提出せよと要請していたのにウクライナが応えたことは、自らの劣勢を認めることで、この点のみが評価されるが、ウクライナ側提案は交渉の俎上(そじょう)には載せられない不満足な内容であるということで全員の意見が一致していた。
ロシアが要求しているのは、ウクライナの非軍事化、非ナチス化、クリミアのロシア領としての承認と「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の独立承認である。対してウクライナの提案は、同国の中立化、NATOを含む軍事同盟への不参加、核兵器を含む大量破壊兵器の不所持で、これはロシアが要求する非軍事化の一部を満たすのみだというのがロシアの理屈だ。
プーチン大統領がゼレンスキー大統領と会談するのは、ゼレンスキー氏が降伏文書に調印するときだけだという発言もあった。これらの発言は、いずれもプーチン氏の意向を踏まえて行われたものと筆者は見ている。
さらに情勢を悪化させる要因が加わっている。30日夕刻の「第一チャンネル」のニュース番組によると「南オセチア共和国」のアナトリー・ビビロフ大統領が「歴史故郷であるロシアと再統一する国民投票を近く行う」と表明した。
「南オセチア共和国」はロシア軍の介入により2008年にジョージアからの一方的独立を宣言した「未承認国家」だ。「未承認国家」と言っても国連加盟国では、ロシア、ニカラグア、ベネズエラ、ナウル、シリアの5カ国が承認している。
国民投票が行われれば、圧倒的多数の賛成でロシアとの再統一が決定されることは必至だ。ジョージアは激しく反発し、軍事介入する可能性もある。
プーチン氏はジョージアが軍事介入しても力でたたきつぶし、「南オセチア共和国」を併合する腹を固めているのだと思う。ロシアによる領土拡張がジョージアに及ぶのは時間の問題だ。
(作家、元外務省主任分析官)