<書評>『古地図で楽しむ 首里・那覇』 “琉球史の視覚化”体感


社会
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『古地図で楽しむ 首里・那覇』安里進、外間政明編 風媒社・1870円

 「琉球史を楽しんでいただきたい」本書の前書きにある目的は、かなり達成されているのではないか。著者は、安里進氏(沖縄県立芸術大学名誉教授)、外間政明氏(那覇市歴史博物館)をはじめ、研究実績はもちろん、一般向けにも、発信されている方々だ。

 古文書史料から導き出される歴史とは異なるアプローチ、本書はいわば“琉球史の視覚化”ともいえるだろう。琉球時代の社会風俗、生活道具、娯楽、ファッション、交通、首里・那覇に生きた名もなき琉球人を、浮き彫りにしてくれる。何度も世替わりを重ねた沖縄。特に都市部である首里・那覇は、変化の最前線にいた。王国時代の景色、今もわずかに残る手がかりと重なり、往時の息づかいを感じる。

 例えば、現在の那覇小学校。少し前までは前島小学校とよばれていたが(2014年に久茂地小学校と統合)、今は那覇小学校となった。最近でも変化しているのだ。個人的にも、娘が通っていたこともあり、よく通った。学校の目の前に「泊塩田之跡碑」がある。かつてはこの付近が塩田であったことをにおわせるが、今では想像しにくい。

 本書「潟原の製塩風景を読む」の項では、屏風絵(びょうぶえ)から塩田の風景を解いてみせてくれる。海岸線近くでガーブ川と安里川が合流する「前島」は、離れ小島であり、砂地が広がった地理的由来、描かれた塩作りの様子、そして民具まで解説してくれる。塩づくりの功績で、士族となった人物も紹介しているが、その家の名前を冠したマンションが、確かに現在も残る。時代の変化を越えて受け継がれていることを実感。また、塩田でンマスーブ(競馬)をしている様子もあるが、これも別項「琉球競馬」で詳しく解説されている。最新の標高図・図版を使った補足もうれしい。

 今年は復帰50年だが、当時は日本の専売制が適用され、いわゆる「島マース」が危機に直面したことを調べたことがある。一連の世替わりの歴史が、娘の通っていた学校と交差する。この不思議な感覚を本書で体感してもらいたい。

 (賀数仁然・琉球歴史研究家)


 あさと・すすむ 1947年生まれ。沖縄県立芸術大名誉教授。著書に「首里那覇鳥瞰図の年代設定と描かれた景観の虚実」「近世測量絵図のGIS分析」など。

 ほかま・まさあき 1967年生まれ。那覇市文化財課担当副参事。主な論文に「尚家継承古文書の既存目録と評定所文書」、共著に「琉球船と首里・那覇を描いた絵画史料の研究」など。