【要旨】辺野古不承認取り消し裁決概要


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名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部=2022年3月17日、航空機より撮影

 裁決書(要旨)

 審査請求人 沖縄防衛局
 処分庁 沖縄県知事

 主文

 本件審査請求に係る処分を取り消す。

 理由

 第1 公有水面埋立法第4条第1項第1号の「国土利用上適正且合理的ナルコト」という要件について

 サンドコンパクションパイル(SCP)工法、サンドドレーン(SD)工法およびペーパードレーン(PD)工法は、地盤改良の工法として、施工実績が豊富であり、沖縄県内においても施工実績がある。例えば、東京国際空港再拡張事業や、関西国際空港第Ⅰ期事業、同第Ⅱ期事業、神戸港PⅠ(Ⅱ期)地区国際海上コンテナターミナルなどにおいては、本件埋立事業において予定している地盤改良の各工法による砂杭等の本数よりも、各工法で比較して多くの本数の砂杭等を打設して地盤改良が行われている。なお、地盤改良工事においては、改良地盤の下部に未改良地盤が残されることもある。処分庁も安定性能照査基準を満足していれば、未改良の地盤が残ることに設計上の問題があるとはいえないとしていた。

 処分庁は、本件代替施設の安定的な運用を図る上で、(最深部の)B―27地点付近の地盤条件の設定が災害防止に関して最も重要であり、また、軟弱地盤の最深部が位置するにもかかわらず、B―27地点について、力学試験を行わず、約150m離れたS―3地点、約300m離れたS―20地点および約750m離れたB―58地点から、せん断強度を類推しており、地点周辺の性状等を適切に考慮しているとはいい難いなどとして、港湾の施設の技術上の基準の細目を定める告示第13条に適合しているとは認められず、災害防止に十分配慮した検討が実施されていないと指摘している。

 証拠によれば、技術基準・同解説において、地層を区分する際には、土の力学的特性に着目し、砂質土または粘性土に分類され、このうち粘性土は、土の工学的分類体系で、細流分が50%以上の細粒土からなり、液性限界に基づき、さらに分類され、この方法によると、B―27、S―3、S―20、B―58、B―59およびS―13の調査地点の下層において確認された土は、いずれも粘性土に分類され、液性限界に基づく分類も同様の傾向を示しており、さらに、土粒子の密度等の物理試験の結果、採取した土の資料の目視観察による色や植物片の混入等の特徴から、上記6つの調査地点の下層において確認された粘性土は、同じ地層であるとするのは妥当である。同じ地層であれば、B―27の調査地点の地層の力学特性、S―3、S―20およびB―58の調査地点の土質試験の結果から設定された地層の力学特性は相関性があると推認することができるため、S―3、S―20およびB―58の調査地点の三軸圧縮試験等の力学試験の結果から、B―27を含む上記6つの調査地点の下層において確認された粘性土の地層のせん断強度を設定することは、合理性があると認められる。

 本件変更承認申請において、設計に用いた地層区分と、その地層区分に基づいて各地層に設定した、せん断強度を含む土質定数(地盤物性値)は、適正に実施された土質調査および土質試験の結果に基づく地盤に関する十分な情報を踏まえた上で、安全側に設定されており、適切かつ合理的なものと認められる。

 本件変更承認申請が第1号要件を充足しないという処分庁の指摘は理由がなく、処分庁が指摘する不承認の理由をもって、本件変更承認申請が第1号要件を充足しないとはいえない。そして、第1号要件について、当時の沖縄県知事は、本件埋立申請に当たり、普天間飛行場の使用状況や同飛行場の返還および代替施設の設置に関する日米間の交渉経過等を踏まえた上で、騒音被害等により、同飛行場の周辺住民の生活に深刻な影響が生じていることや、同飛行場の危険性の除去が喫緊の課題であることを前提として、本件代替施設の面積や埋立面積が同飛行場の施設面積と比較して相当程度縮小されること、沿岸域を埋め立てて滑走路延長線上を海域とすることにより航空機が住宅地の上空を飛行することが回避されることおよび本件代替施設がすでに米軍に提供されているキャンプ・シュワブの一部を利用して設置されるものであることなどに照らし、埋立ての規模および位置が適正かつ合理的であるなどとして、本件埋立事業が第1号要件に適合すると判断しているところ、最高裁判所は、このような当時の沖縄県知事の判断が事実の基礎を欠くものであることや、その内容が社会通念に照らし明らかに妥当性を欠くものであるという事情は認められず、本件埋め立て事業が第1号要件に適合するとした当時の沖縄県知事の判断に違法または不当があるということはできないと判断していることが認められる。

 このことを前提として、本件変更承認申請の内容、すなわち、埋立地の用途につき、名護市辺野古地先の配置および規模を削除すること、所要の箇所に地盤改良を追加して行うことに加え、全般について、より合理的な設計、施行方法等とすることという申請の内容その他の事実関係等を考慮すれば、本件変更承認申請は本件埋立事業が第1号要件に適合すると認められるから、本件変更承認申請について第1号要件を充足しないとした処分庁の判断は、裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したものとして違法であり、かつ不適切な裁量判断として不当である。
 

 第2 公有水面埋立法第4条第1項第2号の「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」という要件について

 本件変更承認申請が第2号要件を充足しないという処分庁の指摘は理由がなく、処分庁が指摘する不承認の理由をもって、本件変更承認申請が第2号要件を充足しないとはいえない。第2号要件について、当時の沖縄県知事は、本件埋立承認をするに当たり、沖縄県が定めた審査基準に基づいて本件埋立事業が第2号要件に適合するか否かを検討し、また、関係市町村および関係機関からの回答内容や審査請求人からの回答内容を踏まえた上で、本件埋立事業が第2号要件に適用するか否かを専門技術的な知見に基づいて審査し、護岸その他の工作物の施行、埋立てに用いる土砂等の性質への対応、埋立土砂等の採取、運搬および投入、埋立による水面の陸地化において、現段階で採り得ると考えられる工法、環境保全措置および対策が講じられており、さらに、護岸の構造は支持力等の安定計算が行われ、技術基準に適合しており、災害防止にも十分配慮されているとして、第2号要件に適合すると判断しているところ、最高裁判所は、上記審査基準に特段不合理な点があることもうかがわれず、本件埋立事業が第2号要件に適合するとした当時の沖縄県知事の判断に違法または不当があるということはできないと判断していることが認められる。そして、本件変更承認申請の内容等、すなわち、設計概要変更が環境に及ぼす影響の程度は設計概要変更の前と比べて同程度またはそれ以下と考えられ、設計概要変更の前と同様の方針に従って事後調査および環境監視調査も実施していくこととされているという申請の内容、本件変更承認申請書に添付された環境保全図書は環境監視等委員会による指導および助言等の内容も踏まえて作成されていること、護岸の構造は支持力等の安定計算が行われ、技術基準に適合していることその他の事実関係等を考慮すれば、本件変更承認申請は本件埋立事業が第2号要件に適合するとの判断を覆すようなものではなく、本件変更承認申請は第2号要件に適合すると認められるから、本件変更承認申請について第2号要件に充足しないとした処分庁の判断は、専門技術的な裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したものとして違法であり、かつ、不適切な裁量判断として不当である。
 

 第3 埋立ての必要性について

 処分庁は埋立ての必要性について以下のとおり指摘している。埋立予定地に軟弱地盤が確認されたことを踏まえ、設計概要変更承認申請が行われているが、本件埋立事業の埋立計画は、本件埋立承認の後に実施した土質調査を踏まえ、地盤改良を追加したことに伴い、工程の変更を含め、大幅な見直しとなっており、また、地盤の安定性等に係る設計に関して最も重要な地点において必要な調査が実施されておらず、地盤の安定性等が十分に検討されていないため、災害防止に十分配慮されているとはいい難いことなどから、埋立ての動機となった土地利用が可能となるまでに不確実性が生じており、普天間飛行場の危険性の早期除去にはつながらず、埋立ての必要性について、合理性があると認められない。

 本件変更承認申請に係る審査において、埋立ての必要性は第1号要件、第2号要要件等から独立した審査事項にはならず、埋立ての必要性について合理性があると認められないことを不承認の理由とした処分庁の上記の指摘は理由がない。

 そして、埋立ての必要性について、当時の沖縄県知事は、本件埋立承認をするに当たり、普天間飛行場の使用状況や、同飛行場の返還及び代替施設の設置に関する日米間の交渉経過等を踏まえた上で、騒音被害等により同飛行場の周辺住民の生活に深刻な影響が生じていることや、同飛行場の危険性の除去が喫緊の課題であることを前提として、本件埋立事業が埋立ての必要性が認められると判断していたことが認められる。現在も普天間飛行場の周辺に学校や住宅、医療施設等が密集し、騒音被害等により住民生活に深刻な影響が生じており、また、過去に同飛行場周辺で航空機の墜落事故が発生しており、同飛行場の危険性の除去が喫緊の課題であり、本件埋立事業を着実に進め、同飛行場の移転先を確保し、同飛行場の移設及び返還を実現する必要があることについては、本件埋立承認の時から何ら変わりがないことが認められることその他の事実関係等からすれば、埋立てに関する工事の施行に要する期間が変更されたとしても、埋立ての必要が失われたり、本件埋立承認の時に認められた埋立ての必要性と整合性を欠いたりしていないことは明らかである。したがって埋立ての必要性が合理性を欠くとすることはできない。

 以上のとおり、処分庁の上記の指摘は理由がなく、埋立ての必要性にういて合理性があるとは認められず、埋立ての必要性を欠くとした処分庁の判断は、違法であり、かつ、不適切な裁量判断として不当である。
 

 第4 公有水面埋立法第13条ノ2第1項の「正当ノ事由アリト認ムルトキ」という要件について

 処分庁は、「正当ノ事由」について、以下のとおり指摘している。本件変更承認申請について、埋立地の用途及び設計の概要の変更に至った理由は、客観的見地から、やむを得ないと考えられるが、変更の内容は、やむを得ないと認められず、「正当ノ事由」があるとは認められない。

 本件変更承認申請に基づく本件埋立事業は、いつ完成するか分からず、また、仮に、工事を進めたとしても、地盤の安定性を確保できるかも分からないものであり、普天間飛行場の危険性の早期の除去に資するものか分からず、埋立ての必要性を認めることができず、「変更することについて合理的理由がある」ものと認めることができず、さらに、「変更後の設計の概要に基づいて埋立に関する工事の実施が確実にできることが認められる」ものともいえないため、「変更の内容が客観的見地から、やむを得ない」とは認められず、「正当ノ事由」が認められない。

 本件変更承認申請については、所要の箇所に地盤改良を追加して行うことに加え、全般について、より合理的な設計、施行方法等とすることという申請の内容その他の事実関係及び証拠によれば、本件変更承認申請に係る埋立地の用途及び設計の概要の変更の理由及び内容は必要かつ相当なもので、「正当ノ事由」があると認められる。 したがって、処分庁の判断は、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法であり、かつ、不適切な裁量判断として不当である。本件変更承認申請に係る埋立地の用途変更及び設計の概要の変更には正当の事由があり、承認されるべきものであると認めることができる。
 

 第5 結論

 以上のとおり、本件変更承認申請処分は違法であるから、本件審査請求には理由がある。また、本件に現れた諸事情からすると、本件変更不承認処分は不適切な裁量判断として不当であることも明らかであるから、いずれにせよ本件審査請求には理由がある。したがって、行政不服審査法第46条第1項の規定により、主文のとおり裁決する。

 

 2022年4月8日
 審査庁 国土交通大臣
 斉藤 鉄夫