<書評>『ドクトルきよしのこころ診療日誌』 治療は成長へのチャンス


社会
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『ドクトルきよしのこころ診療日誌』長田清著 遠見書房・1980円

 著者の長田清氏は精神科医で心療内科クリニックの院長である。しかし本人は峠の茶店のおやじさんのつもりであり、クリニックを「人生の旅人が立ち寄り荷物を下ろして一息ついて、また自分の道に戻る」場所と見ている。この本には22名の旅人と氏自身の物語が難しい医学用語を使わず、あたかも上質の短編小説のように感銘深く語られている。

 心療内科を受診する患者さんは、氏によると病気とは言えない人たちであるがその苦悩は深く、一筋縄ではいかない。薬も簡単には効かない。患者さんの人生を支えていた信念や価値観から自縄自縛(じじょうじばく)の状況となり、抜け出せなくなり苦境に陥った人たちと言えるかもしれない。しかし信念や価値観が間違いだったわけではなく、それへの執着が他者の信念や価値観と衝突し状況を悪くしたのである。柔軟な態度で折り合いをつけることができれば自分も相手も一段と高く成長することができる。氏は「治療とは病を治すことではなく成長である」と言う。病は成長するためのチャンスという捉え方である。

 氏と患者さんとの対話が素晴らしい。説教も指示もせず、患者さんの長所と美点を取り上げて自信を持たせ、対立する相手への感謝の気持ちに導き、それによって心身の症状が消失していくのである。本書は、夫婦編、職場編、親子編、老年期編、死の不安編、私の物語の6部で構成されている。23の物語の中に多くの人が抱える悩みと共通のものがきっとあるだろう。

 私が同じ精神科医として感動したのは第6部の「私の物語」である。氏は本書によると12以上の心理療法をマスターしている。しかし診療の場面では全ての心理療法が適時に出てきており、どの療法であると氏も意識しない。氏の優しい思いやりに満ちた人格が心理療法を一段と有効なものにしている。

 (中山勲・沖縄リハビリテーションセンター病院医師)


 ながた・きよし 精神科医、医学博士、長田クリニック院長。著書に「心理療法プリマーズ内観療法」(分担執筆)、「ウクレレきよしの歌謡医学エッセイ」など。