里親家庭を離れた子どもたちに進学支援を 元里親が対象拡大を訴え


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「里子から多くの学びと幸せをもらった一方、社会的養護が必要な子どもの生きづらさも見てきた」と語る元里親の女性=3月、本島内

 難病と闘いながら勉学に励む元里子(22)を養育した元里親の女性(68)=本島中部在住=が13日までに本紙取材に応じ、今月から大学院に進学した元里子に対する、行政支援の拡充を訴えた。女性は「社会的養護が必要な子どもたちが、安心して勉学に励む環境づくりをしてほしい」と話している。

 元里子は2歳の頃、里親家庭に迎えられた。幼い頃から全身の筋肉や神経の機能が低下する難病を患う。普段から頭痛や倦怠(けんたい)感、筋肉の炎症、食欲不振などの症状が現れ、服薬などで体調をコントロールしている。

 悩みを抱える子どもたちを支援したいと、大学に進学し心理学を専攻した。公認心理師の資格取得を目指し、今春から県内大学院へ進んだ。目標だった院進学を喜ぶ一方、生活費や授業料は気がかりだった。体への負担を考え、医師からはアルバイトと学業の両立は難しいと言われている。

 現行の児童福祉法では子どもが原則18歳になり、自立能力が確認されると里親への委託措置は解除される。元里子は、社会的養護が必要として20歳までの延長が認められた。その後は、児童養護施設や里親家庭で生活する子どもが、22歳の年度末まで支援が受けられる「社会的養護自立支援事業」で生活費などの支援を受けてきた。今月からは、同事業による援助はない。

 元里親の女性は昨年12月、自立支援事業の継続と、国と県の補助を受け県社会福祉協議会が実施する「児童養護施設退所者等自立支援資金貸付事業」の拡大を求める嘆願書を県に提出した。女性は「現時点で嘆願書に対する県からの返答はない。せめて説明があってほしい」と語る。

 支援拡大を求める声を受け、沖縄子どもの未来県民会議は本年度事業として、これまで児童養護施設や里親家庭を卒業した若者らに対する、大学や専門学校に進学する際の入学金・授業料の全額支援を、新たに大学院まで広げた。教材費10万円の給付も追加する。元里子も給付対象となった。

 一方、生活支援費などを貸し付ける県社協の事業は、大学院入学は対象とならない。担当者は「措置解除後の子どもの自立を支援する事業で、今のところは大学生や就職に関しての貸し付けとなっている。大学院は自立されていると見た形で、貸し付けは行っていない」と説明した。

 厚労省が昨年公表した、児童養護施設や里親家庭を離れた子どもたち(ケアリーバー)に関する全国調査によると、月々の収入より支出が多いと答えた人は全体の22・9%。金銭的な理由により医療機関を受診できなかった事例の報告もあり、子どもたちの厳しい生活実態が浮き彫りになった。

 今月から大学院生活がスタートした。元里子は、声を上げ支援につながったことに感謝すると同時に「周囲に頼れる大人がいなかったら、進学を諦めざるを得なかったかもしれない」と語る。元里親の女性は「後に続く子どもたちのために、今後も制度や支援の拡充を訴えたい。施設や里親家庭で育った子どもたちの、将来の選択肢が広がってほしい」と話した。
 (吉田早希)