米側に「身柄引き渡し」求めず…元刑事部長や被害者支援団体の代表はどうみる? 米兵強制性交致傷


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「速やかな公表や起訴前の身柄の引き渡しが必要だった」と話す高里鈴代さん=20日、名護市

 女性に性的暴行を加えようとし、けがを負わせたとして、米海兵隊員が起訴された事件で、起訴前に県警が米側に身柄の引き渡しを求めなかったことに異議を唱える声がある一方、理解を示す声もある。日本復帰50年を経てもなお、沖縄には米軍基地が集中し、米兵による性暴力は後を絶たない。被害者の支援に当たってきた高里鈴代さん(81)や、県警元刑事部長の稲嶺勇さん(78)に事件の公表や身柄の引き渡しをめぐる見解を聞いた。

 強姦救援センター・沖縄(REICO)の高里鈴代代表は、起訴時に事件が公表されなかったことや、県警が起訴前に被疑者の身柄の引き渡しを求めなかったことを疑問視した。過去には、起訴前に米兵が米国に逃亡して事件がうやむやになったケースも多い。沖縄では米軍による女性への性暴力が後を絶たず、高里代表は、在日米軍の沖縄への集中が背景にあるとみている。

 在沖米軍関係者は約5万人いるとされるが、県に明確な人数は報告されない。高里代表は「家族などで駐留する三沢基地などと違い、沖縄の海兵隊は若い兵士が多く、入れ替わりも激しい。5万人どころではなく、延べ人数はもっと多いはずだ」と述べ、事件が繰り返される背景に、海兵隊の部隊運用があると指摘。その上で「沖縄への駐留規模をもっと小さくするべきだ」と求めた。

 1993年に沖縄市で女性が暴行された事件では、容疑者の米兵は基地内で拘束中、民間機で米国に逃走。起訴前の身柄の引き渡しを阻む日米地位協定の問題が浮き彫りになった。

 今回の事件では、米軍が起訴前の容疑者の米兵を拘束していたとされる。高里代表は、どういった状況で拘束していたのか、明らかにされるべきだと指摘した。

 多くの被害者の相談を受けてきた経験から高里代表は、被害を受けた女性をおもんぱかり「事件から起訴、裁判までの時間が長い。県は女性をきちんとサポートしていてほしい」と要望した。
 (中村万里子)

「県警と米軍、協力大事」 元県警刑事部長・稲嶺勇さん

稲嶺 勇さん

 米兵の性犯罪を多く捜査した県警元刑事部長の稲嶺勇さん(78)は県警が容疑者を特定し、米軍が拘束して捜査に協力した点に着目し「県警と米軍が協力して捜査できた。あっぱれだと思う」と指摘、起訴前に身柄引き渡しを求めなかったことに理解を示す。

 稲嶺さんは2002年に発生した米軍少佐による女性暴行未遂事件を指揮し、起訴前の身柄引き渡しを要求した。しかし「身柄引き渡し要求は刑事の意地や県民感情への配慮もあった。捜査は任意が原則。身柄よりも米軍と協力体制を取ることが大事だ」と説明。県警と米軍の協力体制が進んだことを好意的に受け止める。

 米兵による性犯罪については、被害者への配慮が重要だと強調する。01年に発生した事件では、被害女性の服装に着目しておとしめる報道が一部あり、稲嶺さんは記者会見で「被害者に落ち度はない」と、語気を強めて反論した。「当時、性犯罪は親告罪。公表されることに負担を感じた被害者が、被害届を取り下げて捜査が終了し、地団駄(じだんだ)を踏んだこともある」と振り返る。

 少女が被害者となった1995年の事件は県民大会に発展した。「事件を公表するか否かで被害者の保護者と相当話し合ったが、公表しない訳にはいかなかった。被害者のことを考えると、私は今でも『95年事件』と呼ぶべきだと思う」と述べた。
 (稲福政俊)