ロシアとウクライナの関係が一層悪化し、双方ともに引き下がることができない状況になりつつある。18日のロシア紙「イズヴェスチヤ」電子版(政府系)がクレムリン(ロシア大統領府)の意向などについてこう解説していた。
<協議の進展に関するロシアとウクライナの見解が一致しない理由はなぜか。ペスコフ補佐官は(18日の)会見で「交渉の枠組みの中で専門家レベルの接触は続いている。プーチン大統領の、残念ながらウクライナ側には首尾一貫していないと述べたことを思い出してほしい。合意点がしばしば変化する。もっとましな交渉ができるはずだとの不満が残る」と述べた。
/4月16日にゼレンスキーは、マリウポリのウクライナ軍の民族排外主義団体の戦闘員がせん滅させられるならば、キーウはモスクワとの交渉を止めると言った。/セルゲイ・オルジョニキーゼ元ロシア外務次官は、ウクライナ大統領のこの発言は非論理的だと指摘した。マリウポリでウクライナの軍人がせん滅されれば、(ロシア軍に対して)抵抗する者はいなくなり、交渉の必要もなくなる。元次官は、ゼレンスキーの発言の対象は、西側諸国の政府で、ロシアとの和平を欲していないということを示そうという試みだと強調した>
クレムリンは、ゼレンスキー政権を米国の傀儡(かいらい)と見なしている。「米国は、ウクライナが徹底抗戦の姿勢を崩さずにロシアを疲弊させることを狙っている。ならば、ゼレンスキー政権を打倒し、ロシアとの和平を望む政権がウクライナに登場するまで徹底的に戦うしかない」というのがロシア指導部の認識だ。
19日、ロシアのショイグ国防相は、国防省における会議で「米国とその影響下にある諸国は、特別軍事行動をできるだけ長引かせようとしてあらゆる画策をしている。大量の武器を供給してキエフ政権よってウクライナ人が最後の1人まで戦うようにと挑発している」(19日、ロシアのテレビ「第1チャンネル」[政府系]政治解説番組「グレート・ゲーム」より)と述べた。
米国の利益を体現するゼレンスキー政権が最後の1人まで戦うという方針ならば、武力抵抗する者は1人残らずせん滅するというのがロシア軍の方針だ。21日時点で、ロシア軍と親ロシア派武装勢力(人民警察と名乗っているが、実質は軍隊)はルハンスク州の九十数%を制圧した。ルハンスク州全域がロシアが国家承認し、支援している「ルガンスク人民共和国」の実効支配下に置かれるのは時間の問題だ。
他方、ドネツク州については、同時点で「ドネツク人民共和国」が実効支配する領域は50%強に過ぎない。今後、ドネツク州全体をロシア軍などが実効支配できるかどうかで戦争の帰趨(きすう)が決まる。
ドネツク決戦では、77年前に沖縄が経験したような住民を巻き込んだ地上戦が展開されている。無辜(むこ)の住民を救うためには、一刻も早い停戦が必要だ。1人でも多くの人命を救うという観点からこの戦争について考えなくてはならない。
(作家、元外務省主任分析官)