ロシアが西側諸国に対するシグナルを送るのに用いているのが、テレビ「第1チャンネル」(政府系)の「グレート・ゲーム」という政治解説番組だ。3月半ばからモスクワのスタジオからこの番組の常連であるドミトリー・サイムズ氏(1947年10月生まれ、74歳)が出演している。サイムズ氏の父親はソ連の反体制派を支援する弁護士、母親は人権活動家だった。両親は70年代初頭にソ連から米国に出国した。モスクワ国立大学歴史学部を卒業したサイムズ氏も両親と行動を共にし、米国籍を取得した。
サイムズ氏は、キッシンジャー元米国務長官と親しい。現在、サイムズ氏は共和党系のシンクタンク「ナショナル・インタレストのためのセンター」(旧名・平和と自由のためのニクソン・センター)の所長で、クレムリン(ロシア大統領府)と米国の政府、議会、軍をつなぐ重要なロビイストの1人だ。番組の中でサイムズ氏が語ったところによると、クレムリン要人に米国情勢を説明するために訪ロしたとのことだ。
25日午後10時55分(モスクワ時間、日本時間26日午前4時55分)から約1時間、サイムズ氏がロシアのラブロフ外相と2人で対談する模様が放送された。そこでラブロフ氏は米国に対して重要なメッセージを発した。ラブロフ氏は現状が62年のキューバ危機よりも緊張していると述べた。
<キューバ危機の時期には、「文書化された」ルールは多くなかった。しかし、行動上のルールは十分明確だった。モスクワはワシントンがどう行動するかを理解していた。ワシントンもモスクワがどういう振る舞いをするかを理解していた。現在はルールがほとんど残っていない>
日本との関連についてラブロフ氏はこう述べた。<現在、西側諸国は「防衛的」同盟の「防衛線」を南シナ海に移動しようとしている。AUKUS(豪英米協定)、QUAD(日米豪印協議)の創設に伴って、既に日本、韓国、ASEAN諸国の半数が組み込まれている。米国、ロシア、インド、日本、中国、豪州を含む全ての主要で巨大なプレイヤーが参加する数十年かけて形成され合意に基づく機構を分断しようとしている。現在、一極集中の軌道が変化しようとしているのを、あらゆる方法で防ごうとしているのだ>
それに続いてラブロフ氏は第3次世界大戦について言及する。
<全ての人が、いかなる場合においても第3次世界大戦を起こしてはいけないと「呪文」を唱える。この文脈でゼレンスキー・ウクライナ大統領とそのチームによる挑発について検討しなくてはならない。この人たちは、ウクライナの政権を守るためにNATO軍のほとんどを投入することを要求している。そして、いつもキーウに武器をよこすようにと言っている。これが「火に油を注ぐ」ことになる。
この人たちは、武器の供給によって、紛争をできるだけ長引かせ、ウクライナの最後の一兵までロシアと戦わせ、少しでも多くロシアに犠牲が生じることを望んでいる。武器を供給し、この方向でプロパガンダを展開する(ポーランドを除く)全ての指導者は、NATO軍を派遣することはないと述べている。ワルシャワは、モラビエツキ首相の口を通じてウクライナに「平和維持軍」なるものを提案しており、平和維持軍の旗の下で軍人の派遣に関心を持っている>
ラブロフ氏は、ポーランドが「平和維持軍」の名目でウクライナに派兵すれば、ロシアは、それを敵対行動と見なし、ポーランドを攻撃するので、それが第3次世界大戦に発展すると警告を発しているのだ。
(作家・元外務省主任分析官)