全島一の夢、父牛の無念晴らした赤毛の息子牛 平良恵さん<闘牛語やびら 復帰50年記念大会・全島大会>


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全島大会横綱戦の3度目の防衛が懸かる闘勢琥珀と牛主の平良恵さん=うるま市石川

 愛牛に託した全島一の夢をかなえたのは、その息子だった―。黄金色の珍しい毛色を持つ重量級王者、闘勢琥珀(とうせいこはく)は8日の全島大会の結びの一番で3度目の防衛に臨む。誰もが認める実力ながらも、ついぞタイトルに手が届かなかった父牛、梨夢神(りむじん)の思いを引き継ぐように躍進を続ける。「梨夢神も天国で見ているよ。けがしないで頑張ろうね」。牛主の平良恵さん(47)は、優しく声を掛ける。

 2014年の秋ごろ、沖縄闘牛中量級で活躍が光る愛牛・梨夢神の子どもが近くの牧場で生まれると耳にした恵さん。時を同じくして、赤毛の子牛が生まれる夢を見た。それを周囲に話すと、梨夢神は黒牛で母牛は真っ白のため「赤毛は生まれない」と笑われた。

 出産の知らせを聞き、駆けつけるとそこには赤毛の子牛が。運命を感じ、「誕生日プレゼントは一生いらないから、この子牛が欲しい」。夫の高敏さんに毎日ねだり、誕生から約1カ月後、牛主となった。赤毛牛の中でも珍しい、黄金色の毛色の特徴から「闘勢琥珀」と名付けた。

 18年、闘牛界屈指の実力牛となっていた梨夢神が全島中量級タイトルの挑戦牛に選ばれた。当日は、子どもたちと共に応援に駆けつけたが、25分の激闘の末、あと一歩及ばなかった。梨夢神は再起を図る中、ひづめから入った菌が全身に回り、20年10月に13歳で死んだ。

闘勢琥珀の父牛・梨夢神

 梨夢神の死から1カ月後の20年11月、琥珀は大会デビューを果たし、21年5月に異例の速さで全島の重量級タイトルの出場牛に選ばれた。「まだ早いんじゃないか」との恵さんの不安を吹き飛ばすかのように、3分足らずで快勝。続く防衛戦も圧勝だった。「実はでっち奉公の経験もあり、いろんな環境にいたから強いのかな」と笑う。

 3度目の防衛が懸かる今回の対戦相手は、梨夢神が敗れた同じ牛舎からの出場牛。「名門牛舎なのできれいに仕上げてくるだろう。良い試合ができるようにこちらも全力で整えていきたい」と前を見据える。入場曲は北島三郎の「恩返し」。多くの人への感謝を胸に、威風堂々と入場する。
 (新垣若菜)


 7日に県復帰50周年記念大闘牛大会、8日に全島闘牛大会がうるま市の石川多目的ドームで開催される。